コロナ対策の一環として実施される18歳未満を対象とした現金・クーポン給付がさまざまな話題を提供している。例えば960万円以下という給付制限は世帯収入か世帯主の収入か、現金給付は消費につながらないとする麻生前財務大臣を筆頭とした一部財務官僚の頑迷固陋な思い込み。野党は相変わらず無条件で全額現金給付を要求し、挙句の果てにはクーポン給付にかかる事務経費として1000億円が計上されているという驚くべき事実が発覚した。思わずアベノマスクより悪質だと叫んでしまった。極め付けは全額現金給付するという自治体の首長が跡を断たないことだ。日本の自治体も捨てたものではない。政治家や高級官僚が間違っても、合法的に軌道修正している。裏を返せば事務処理の煩雑さを判断できないまま、机上の空論を振りまく政治家・高級官僚の無能ぶりが炙り出されたということだ。権力を握る為政者に学習効果なし。嘆かわしい。

けさの朝日新聞(Web版)に「10万円給付、クーポンは『三方損』 全額現金にした自治体の言い分」と題した記事が掲載されている。すべて現金給付に切り替えた大阪市の松井市長は言う。「現金で一括給付する方が効率的で、住民ニーズにも合っている」。現金やクーポンの給付にかかる事務のことを総称して自治事務というのだそうだ。要するに国が決めた大枠の中で地方自治体が実施方法を勝手に判断できる制度のことを言うらしい。松井市長は合法的に国には従わないといっているわけだ。この記事によると、大阪市内の給付対象者は約35万人。このうち児童手当を受け取っている15歳以下の約26万人については、児童手当の仕組みを使い、年内に10万円を給付するという。大阪市の事務経費費用がいくらあるかわからないが、全て現金で給付するだけで経費の大半は浮くだろう。余った経費は独自の政策遂行に使えばいい。実務に長けた維新らしい独自判断だ。

アベノマスクは安倍側近の高級官僚が、パンデミック初期のマスク不足解消を狙った政策だ。目の付け所はいいのだが、布マスクでサイズが小さく、配送に莫大な経費がかかる。政策実現に要する実務をほとんど理解していなかった。結果的に世間の大顰蹙をかった。頭でっかちの秀才に権力を持たせるとこういうことになる。同じことは「現金を給付しても消費に回らない」との主張や、矢野次官のバラマキ論にも言える。いずれも複雑な現象の一面を捉えているに過ぎない。消費してもしなくても現金はいずれ銀行に積み上がる。例えば、銀行がリスクを取ってベンチャー企業に融資すれば、消費と同じ効果を発揮する。だが、行政におんぶに抱っこの銀行はリスクを取らない。バブルに懲りた金融庁はリスクを取るなと指導する。かくして実務を知らない政治家や高級官僚がのさばり、この国はどこまでいってもマンガチックなドタバタ劇が続くことになる。