岸田首相がきのうの夜、安倍元首相と会食しながら懇談した。各紙に記事が出ている。現・元首相の懇談というだけで、個人的には特に興味をひくニュースではない。とはいえ、日本の政治に影響力を持つ二人の会食だ。何が話し合われたのか気になる。時事通信によると「都内の日本料理店で会食した。新型コロナウイルスや通常国会への対応、夏の参院選など今後の政権運営をめぐり意見交換したとみられる」とある。「とみられる」記事、裏取りができている訳ではなさそうだ。ベタ記事で短い。産経新聞は「両氏の会食は昨年10月の岸田政権発足以降初めて。外交や拉致問題、皇位継承などについて意見を交わした」と断定調だ。「外交や拉致問題、皇位継承」で意見を交わした。こちらの方がコロナ、通常国会、参院選よりは中身がある。他の新聞はどうか、調べようと思ったがやめた。どうせ大差はない。

産経新聞は二人の会食をネタに「首相と安倍氏 根強い『すきま風』久々の会食」と見出しを立て、長めの記事に仕立てている。中身がないぶん推測で読ませようというわけだ。当選同期の二人、それぞれが親の地盤を受け継ぐ政治家の家系を背負っている。付かず離れず魑魅魍魎が蠢く政界の中を泳ぎきってきた。現在は安倍氏が清和会の会長、岸田氏は宏池会の会長に収まっている。同じ保守でも清和会が右寄りなのに対して宏池会は中道穏健派といったところか。両派は昔から考え方にも政治行動にも違いがあった。すきま風はいまにはじまったことではない。いつの時代も吹いていた。安倍氏が首相の時代、岸田氏は政権の禅譲を期待して安倍氏に寄り添ってきた。むしろこちらの方が異常だったのだ。その岸田氏は菅氏を押す安倍氏の期待を裏切って後継総裁選挙に打って出た。この時は敗れたものの、安倍離れをした途端に総裁への道がひらけた。

雑誌「クライテリオン」に「新しい日本型資本主義とは何か」と題した岸田首相のインタビュー記事が載っていた。タイトルに惹かれて購入してみた。新しい資本主義の原点は、「公益資本主義」にあるのだそうだ。菅氏と争った総裁選からこれをベースにした「新しい資本主義」を展開しはじめたという。「公益」を一言で要約すれば企業が儲けた利益を幅広く還元すること。企業はいま従業員や取引先など多くのステークホルダーを無視して株主に利益を厚く還元している。企業が儲けるのは当たり前。儲けた利益を株主だけでなく幅広く還元するのが公益資本主義というわけだ。岸田首相が提唱する成長と還元、その原点は公益資本主義にあるという。こうした考え方はいま国際的にも徐々に支持を集めている。岸田氏が日本のリーダーになるための条件、それは安倍氏との蜜月ではなく「安倍離れ」にあるような気がする。