小川 真由美

岸田首相=11日
岸田首相=11日

岸田文雄首相(自民党総裁)が11日夜、安倍晋三元首相と東京都内で会食した。今夏の参院選の勝利で長期政権への足場固めを狙う首相にとって、党内最大派閥の安倍派(清和政策研究会、94人)を率い、保守層に強固な支持を持つ安倍氏の協力は欠かせない。だが、足元では首相と安倍氏のズレも浮き彫りになり、不安定要素も漂う。

両氏の会食は昨年10月の岸田政権発足以降初めて。外交や拉致問題、皇位継承などについて意見を交わした。

安倍氏は盟友の麻生太郎副総裁とともに岸田政権誕生の立役者とされる。首相は昨年8月に総裁選出馬を表明する際、菅義偉政権(当時)を支持していた安倍氏に事前に出馬の意向を伝えた。同12月の安倍派パーティーで首相は「最大派閥が勢いを増すことは安定という意味で重要だ。岸田内閣をど真ん中で支えてくれ、大変ありがたい」と蜜月をアピールした。

首相と安倍氏はともに党内主流派の実力者。参院選の勝利はそれぞれの求心力の維持に不可欠だ。

一方、外交や経済などで首相と安倍氏の「すきま風」も目立ってきた。

安倍氏は2月の北京冬季五輪に首脳や政府使節団を送らない「外交的ボイコット」について、「中国に対する政治的メッセージは日本がリーダーシップをとるべきだ。時を稼いでどういう利益があるのか」(昨年12月13日のBS日テレ番組)と指摘した。

こうした発言の真意について、安倍氏は周囲に「アジアのリーダーとしての信頼を損なうことになる」と語り、危機感を強めていた。首相は12月24日にボイコットの意向を正式表明したが、党内には「対応が遅すぎた」(閣僚経験者)との不満がくすぶる。

経済政策でも両氏の路線の違いは鮮明で、この日の会食でも話題に上った。安倍氏は積極的な財政出動を求める財政政策検討本部の最高顧問に就任。一方、首相は総裁直轄の財政健全化推進本部で財政再建に向けた議論を指示した。

成長と分配を軸とした首相の経済政策「新しい資本主義」に対しても、党内には「成長と分配は安倍政権でも打ち出していた」(重鎮)との声が漏れる。

そもそも「軽武装・経済重視」の岸田派(宏池会、43人)の系譜を継ぐ首相と、憲法改正や防衛を主眼とする清和会の安倍氏とは政策が異なる。さらに、首相はかつて党の有志でつくる選択的夫婦別氏制度を早期に実現する議員連盟の呼びかけ人になり、夫婦別姓に慎重な安倍氏とは隔たりがあった。首相と安倍氏の距離感が火種になれば、今後の政局を左右しかねない。(小川真由美)