経団連はきのう、今年の春闘に向けた経営側の方針である「経営労働政策特別委員会報告」をまとめた。日経新聞(Web版)によると、担当副会長である大橋徹二氏(コマツ会長)は記者会見で、「(不振企業は)賃金よりもまず事業継続、雇用の維持が重要だ」と述べ、「賃上げは個社が決めるもので、一律でやることはない」と強調した。これを見て今年の春闘も終わりだと思った。経営側に大幅賃上げの意欲もエネルギーもない。唯一の期待は女性初の連合会長に就任した芳野友子氏の腕力だ。胆力も諸外国に対抗する情熱もない、フニャフニャとした男性経営者に鉄槌を下すためにも、すべての労働者を結集した実力行使を敢行すべきだ。それが日本中の7割から8割を占める一般庶民の勇気を鼓舞する。記事を読んでそんな妄想だけが広がった。

話はそれるが、日経Web版を拾い読みしながらDeNA会長の南場智子氏の記事を見つけた。2021年12月6日配信の「世界舞台に大勝ちめざすDeNA会長 南場智子氏」といいう記事だ。少し長いが引用する。「いま、大勝ちできる企業が日本では生まれていない。人材の流動性が欠落していることが背景だ。大企業は人材が凝り固まっている。大企業に入社していく優秀といわれる学生たちが、その組織でしか通用しない人材になってしまっている。(人材が動かないこともあり)国内のスタートアップの数が圧倒的に足りない。レベルもGAFAMに到底届いていない」。その通りだと思う。優秀な人材が狭い世界に固定されている。優秀の基準は頭脳明晰というだけではない。実務に優れた調整能力、機械を上回る職人のような加工能力、現場で役に立つ有能な人材が特定の場所でしか通用しないのだ。南場氏は続ける。

「DeNAは社内の人材を大切にするが、一方で囲い込まないことにした。以前は人材をできるだけ組織に閉じ込めようとしていたが、考え方を変えた。社内の役員や子会社幹部などの『事業リーダー』人工知能(AI)など専門性の高い『スペシャリスト』を育成するだけでなく、社員の独立起業、スピンアウトを後押しする第3のキャリアパスも用意した」。日本にもこういう経営者がいるのだ。しかも女性だ。男が主導する女性活躍社会なんて屁の河童かもしれない。状況を変えるには発想の転換とその実行が必要なのだ。翻って春闘。25日に予定されている経団連と連合の「労使フォーラム」で交渉の幕が切って落とされる。いまは経団連と連合をぶっ飛ばす、破壊的な春闘が必要な時期だ。庶民が豊かにならない限り、この国は豊かにならない。「大幅賃上げを期待する」(岸田首相)だけの政治家に、流れは変えられない。