きょうから衆院予算員会で与野党の本格的論戦が始まった。始まった早々にこんなことを言うのは気がひけるが(そんなこと思っていないだろうという外部のヤジが聞こえる)、国会論議には全く期待していない。前例や慣行、官僚の書いた答弁書の棒読みが横行する国会だ。大所高所に立った質の高い、人類の未来を先取りするような先鋭的な議論を期待すること自体ナンセンスだろう。来たるべき参院選挙に向けて私利私欲、党利党略が跋扈する日本的な政治風土だ。日本だけではない。世界中の政治の実態がこれだ。問題解決に至るどころか、議論すればするほど政治家同士が排他的になり、問題はこんがらがり、事態は深刻化する。「聞く能力」を吹聴する岸田首相にはそんな政治風土を根っこからひっくり返してほしいと思うのだが、就任3カ月、伝わってくるのは悲観的なものの方が圧倒的に多い。

そんな中でせっかくの国会論戦のスタートである。個人的な期待感を取り上げたいと思う。それは何か?ズバリ言うと「企業の非財務情報の拡充強化」だ。岸田首相が公約として掲げている政策テーマの一つでもある。地味で一般には馴染みのない専門的なテーマだ。だが、大上段に振りかざした「新しい資本主義」はいまだに何をやりたいのか、“言語明瞭にして意味不明”だ。成長と配分も安倍元首相が主導した政労使会議とどこが違うのか。大きな政策に期待しても裏切られるだけだから、地味な政策にささやかな期待感を表明する、という訳ではない。ここで対象になっているのは企業の人的投資を「見える化」しようという話だ。地味で大向こう受けするテーマではないが、資本主義経済に立脚する企業の競争力を煽るという意味では、極めて意義のあるテーマだと思う。

企業の財務情報というのは売上高や利益など数値情報がベースになっている。それが開示情報の大原則だ。だが、売上や利益を確保するためには経営者の経営戦略、直面する経営リスクなど、数字に現れない考え方が裏には存在している。それが非財務情報だ。岸田首相はこの非財務情報の中に企業の人的投資に対する考え方を盛り込みたいと提案している。金融審議会の専門部会が検討を進めており、夏までには報告書が出来上がる予定だ。なぜここに期待するか。岸田首相は「賃金は人への投資」だと言っている。賛成だ。非開示情報に人的投資を盛り込めば、賃上げに消極的な企業の株価は下がらないまでも上がりづらくなる。株主も人的投資に注目する。そうなれば企業間に競争原理が働く。儲けても利益の配分に消極的な企業は置いてけぼりを食う。地味で小さいように見えるが、実質的には企業経営者の意識改革を促進する。それが広まれば日本にいま必要な“政策の大転換”がおこる。期待しよう。