ウクライナ情勢を眺めながら感じるのは、プーチン大統領に付きまとう古臭い“権力臭”だ。例えば、同大統領は強烈な経済制裁で対抗する西側首脳を意識してか、核兵器の使用を匂わせる発言をしている。英国のBBCによると同大統領は27日深夜、セルゲイ・ショイグ国防相を含む軍幹部に対して、西側がロシアに「非友好的な行動」をとり、「不当な制裁」を科したとして、核抑止部隊に「特別警戒」を命令した。ロシアの核部隊にとって、「特別警戒」は最高レベルの警戒態勢を意味するという。要するに核兵器を使うぞと脅しているわけだ。まるで北朝鮮の金正恩並みの発想だ。核兵器が抑止力として幅を利かせているのは間違いない。だが、世界の指導者は抑止力に頼らない紛争の解決を目指すべく努力をしている。こうした努力に背を向けるように抑止部隊に核兵器の使用準備を命じる政治手法、それが一種の恫喝であっても許されるものではない。

プーチン大統領はウクライナへの侵攻を始める直前にも、「ロシアは比類なき核保有国である」とわざわざ強調している。核に頼ろうとするその姿は、世界に向かって「わが国は核保有国だ」と訴える金正恩に重なる。ウクライナ侵攻はロシアの安全保障が危機に晒されているためというのが、プーチンの大義名分だ。ロシアの安全保障とは煎じ詰めればロシア国民を守るためのものである。だが、プーチンの安全保障には国民は含まれていない気がする。国民不在の安全保障でプーチンは一体何を守ろうとしているのか。プーチン宮殿と言われる広大な御殿や、最高権力者の立場を利用して蓄えた資産、独裁者として君臨する最高権力者の地位など、プーチン帝国を守ることが彼の安全保障であるようにみえる。そのことは西側諸国の厳しい経済制裁を無視して軍事力を行使する手法にもうかがえる。

有識者の一部には西側が結束して進める経済制裁の効果がはっきするには時間がかかると見る向きがある。だが、航空機の乗り入れ禁止、港湾の利用禁止など次々と発令される経済制裁にロシア経済は混乱しはじめている。最強の制裁ともいうべきSWIFTからの締め出し方針が伝えられると、ロシアの通貨ルーブルは暴落し、株価や債券も急落した。こうした中でロシア中央銀行は公定歩合を9.5%から一気に20%に引き上げた。目的はインフレ対策と預金の棄損を防ぐこと。大統領が国民生活を無視して進める軍事侵攻のツケを、中央銀行が拭おうとしているわけだ。それでも庶民の生活は苦しくなる一方だろう。臨時の国連総会はロシアとプーチンの孤立を如実に物語っている。マーケットの国際基準を算出しているMSCIは、指標からロシア関連銘柄の排除を検討している。ヒト、モノについでカネもロシアをパスしはじめている。それでも自分を守るためにウクライナ人のジェノサイドを続けるプーチン。世も末だ。