ウクライナ情勢は一段と泥沼化の様相を強めている。ロイターによるとゼレンスキー大統領はきのう、ロシア軍が南部の港湾都市マリウポリの小児病院を空爆、深刻な被害を受けたと非難した。ツイッターへの投稿では「子どももがれきの下にいる」と述べ、「残虐行為だ。世界はいつまでこの恐怖を無視する共犯者となるのか」と、一向に動こうとしない米国やNATOを断罪、早急に飛行禁止区域を設定するよう訴えた。まだある。ウクライナ国営の原子力発電会社は9日、「ロシア軍が占拠しているチェルノブイリ原子力発電所で、送電網が損傷し停電が起きている」と明らかにした。福島原発の事故が頭をよぎる。使用済み核燃料の冷却ができなければ、放射性物質が大気中に拡散する。最悪の事態だ。これに対してロシアのインタファクス通信は、「ロシア国防省はウクライナ軍がチェルノブイリ原発の送電線と変電所を攻撃したと指摘。危険な挑発行為と非難した」と伝えている。小児病院の空爆もロシアは、ウクライナ軍の仕業だと言っている。
今回の戦闘に伴う両軍の死者がどのくらいの数になるのか、こちらも情報が錯綜、実態は一向にはっきりしない。ロシア国防省は2日に「(自軍の)死者は498人」と発表している。これに対してウクライナ軍は最大1万2000人に及ぶと指摘する。自軍の死者が多ければロシア国内での反戦ムードが高まるだけに、どちらも相手国を過大に、自国を過小に評価する傾向がある。だが、498人と1万2000人では情報戦争にしても差が大きすぎる。共同通信はきのう、7日付の英紙タイムズの記事を転載している。記事はロシア情報機関、連邦保安局(FSB)の内部文書とみられる報告書の内容を報じたもの。「真偽は不明」と断りつつ、「ロシア軍の死者が既に1万人規模に上っている恐れがある」とし、「ロシアは追い詰められている。勝利の選択肢はなく、敗北のみだ」と報告書の内容を紹介している。いくら情報機関の内部文書とはいえ、こんなことを書くとは思えない。誰かが作ったフェイクだろう。
リアルの戦争に並行して情報戦争が延々と続いている。情報戦争というのは真偽の確認が難しい。まして戦争中である。フェイクどころか偽情報がまことしやかに飛び交っている。我々一般庶民は自国メディアの情報を通して、現地ウクライナの悲惨の状況に接している。日本語メディアの多くは海外の報道機関からの引用で記事を作成している。共同通信の記事は英紙タイムズの引用だ。共同に限らない。テレビや新聞など主要メディアがやっていることは、簡単に言えば引用報道である。このコラムは引用された記事を部分的に引用している。要するに“孫びき”だ。情報のハンドリングとして一番やってはいけない行為だ。だが、密室の奥で行われているいような権力者同士の情報戦争の真偽を見極められるわけがない。必要なのは常識的判断だ。孫引きしながらいつも思うことがある。プーチンは明らかに“嘘つき”だ。北朝鮮の金正恩にどんどん近づいていく。