ウクライナのゼレンスキー大統領がきのう、米議会向けにオンライン形式で講演した。同大統領はこのところ、オンラインでの外交攻勢を強めているが、これもその一環だろう。講演の最後にバイデン大統領に対し、英語で「私はあなたが世界のリーダーになることを望む。世界のリーダーであることは平和のリーダーでもある」と呼び掛け、演説を締めくくった、とロイターは伝えている。これは儀礼的な謝辞やおべんちゃらではない。講演の中で同大統領は「われわれはウクライナの上空を守る必要がある。上空に飛行禁止区域を設定し、戦闘機や防空システムを供給してほしい」と、米国側に改めて要求している。この講演を聞いたバイデン大統領をはじめ米議会の多くの議員らは、どんな気持ちだったのだろうか。

ウクライナ上空に飛行禁止区域を設定する。ゼレンスキー大統領はこれまで折に触れ、この要求を繰り返している。これに対してバイデン大統領は「そんなことをすれば第三次世界大戦になる」として拒否している。米議会もNATOもいまのところ、公式にはバイデン氏の主張に異論を唱えていない。素人目で見てもロシア軍には、リスクなしで上空から無差別攻撃を仕掛ける環境が整っているわけだ。第3次世界大戦の回避といえば聞こえはいい。だが、その裏で何の罪もないウクライナの人々がミサイルや空爆によって命を落としている。それだけではない。バイデン氏は最初から、軍事的には参戦しないと明言している。プーチンが世界に向かって核兵器使用を示唆した時にも、何の反応も示さなかった。政敵のトランプ前大統領は「米国はロシアに優る核大国であると、ひとこと言うべきだった」と皮肉っている。

アフガニスタンの失敗に懲りたのか、個人的にはバイデン氏の背中に「ビビリ」が取り付いているように見えて仕方がない。時事通信(攻撃兵器供与なら「第3次大戦」 与党会合で警告―米大統領、3月13日付)によるとバイデン大統領並びに現政権は「レッドライン」という言葉を使わないようにしているのだそうだ。この言葉はシリア内戦時にオバマ大統領(当時)が、アサド政権の化学兵器使用を牽制する意味で使った言葉だ。アサド政権は最終的にこれを使うのだが、レッドラインを敷いたはずのオバマ政権は、敵が越えてなならない一線を超えても何の対応もとらなかった。これを機にオバマ氏は国際社会の信用を失ったのである。中間選挙や大統領選挙を控え、バイデン氏は政権が傷つくことを極度に恐れているように見える。確かに第3次世界大戦の危険性はつきまとっている。だが、戦わないバイデン氏を読み切ってプーチンは侵攻を決断したのではないか。せめて「レッドライン」は敷くべきだろう。