ウクライナのゼレンスキー大統領がきのう、日本の国会議員を対象に講演した。一部評論家が事前に予想していた東日本大震災や被爆国・日本への直接的な言及はなかった。講演の冒頭で日本とウクライの関係について「両国の首都は8193キロ離れていて、飛行機では15時間かかりますが、自由を望む気持ち、生きたいという気持ち、それに平和を大切に思う気持ちに距離がないことを、2月24日に実感しました。両国の間には1ミリたりとも距離はなく、私たちの気持ちに隔たりがないことを」と、両国民の心が通じ合っていると強調した。何よりも歴史的な事実ではなく、身近なところから話題を拾っている点に好感が持てた。NHKのサイトに掲載された全文を読んだ。日本に対する感謝と連帯を強調しながら、ロシアに対する制裁の強化を求める内容になっていた。

それを際立たせているのが講演の後半部分に出てくる以下の内容だ。ちょっと長くなるが引用する。「日本の皆さん!私たちが力を合わせれば、想像以上に多くのことを成し遂げられます。私は、皆さんのすばらしい発展の歴史を知っています。

いかに調和を作りだし、守れるかを。

規範に従い、命を大切にしているかを。

環境を守れるかを。

これらはウクライナ人も大好きな、皆さんの文化に根付いています。これは本当のことです。ほんの一例ですが、2019年、私が大統領に就任して半年がたったころ、妻のオレナが目の不自由な子どものためにオーディオブックを作るプロジェクトに参加しました。このとき彼女がウクライナ語で音声を吹き込んだのが、日本のおとぎ話だったのです。私たちにとって、そして子どもたちにとって、共感できる内容だったからです」

俳優でありコメディアン出身のゼレンスキー大統領は、聴衆の心を捉えるのが実に上手いと思う。米国の演説では「パールハーバーを思い出してほしい」と米国人の心を鷲掴みにした。日本では「おとぎ話」を持ち出してきた。それも妻・オレナさんのちょっとしたエピソードがベースになっている。ロシアの無差別爆撃や原発を対象とした悲惨で無謀な攻撃に直接触れることなく、ウクライ人と日本人が共に平和を希求していることを強調することによって、ロシアが仕掛けた無謀ともいうべき戦争悲惨さを浮き彫りにした。メディアによるとゼレンスキー氏の支持率はロシアの侵攻以来急上昇しているという。首都キエフにとどまり、死を覚悟しながら国民に団結を呼びかけ、ロシアへの抵抗の先頭に立っている。今日のニュースの中にキエフに迫っているロシア軍が押し戻されているとの報道があった。頑張れウクライナ。