イーロン・マスク氏。EVメーカー・テスラのCEOであり、スペースX創業者。ドッジーコインを一躍有名にした暗号資産(仮想通貨)の愛好者でもある。何かにつけ話題を振りまく有名人。そして世界最大の富豪に躍り出たという事実が、この人を時代の寵児に押し上げた。マスク氏の資産はどのくらいあるか、諸説ある。ブルームバーグは2506億ドル(日本円で31.3兆円)、米経済誌フォーブスは約3000億ドル(約37兆円)と推測する。いずれにしても気の遠くなるような額だ。CEOの報酬はゼロ。だから税金は払っていない。バイデン大統領になって富裕層批判が巻き起こると、持株を売却して税金を払った。いわゆるキャピタル課税だ。これを是とするか非とするか、意見は別れる。バイデン大統領はキャピタル増税を打ち出している。この法案はいまだに成立していない。マスク氏の行動は増税前の駆け込み売却とみることもできる。利にさといのかもしれない。

そのマスク氏が世界最大のSNS(交流サイト)であるツイッターの全株買収をぶち上げた。14日のことだ。これに対してツイッター経営陣は防衛策の発動を決めた。「ポイズンピル(毒薬条項)」と呼ばれる手法。日経web版によると、「時価より安い価格で新株を購入できる権利を既存株主に認め、買収者が保有する株式を希薄化させる」というものだ。買収防衛策としては一般的な手法、発行ずみ株式数を増やすことによって買収コストを高めることを狙っている。マスク氏が打ち出した買収価格は1株54ドル20セント。当時の時価に比べ2割方高い。買収総額は430億ドル(約5兆4000億円)に達する。だが、彼の資産3000億ドルから見れば決して高い買い物ではない。買収額が多少上がっても余裕を持って耐えられる。庶民感覚の理解を超えた買収だ。

マスク氏の目的は。自ら語ったところによると「ツイッターが『言論の自由』のためのプラットフォームになるには、非公開化が必要」(ロイター)だと主張している。要は言論の自由の確保だ。前回の米大統領選挙でツイッターは、トランプ大統領(当時)のアカウントを閉鎖した。言ってみればこれは「言論の自由」への弾圧ということになる。こうなると庶民もこの問題への参戦が可能になる。「言論の自由」とは何か、考え込まざるを得なくなる。ウクライナ戦争をみるまでもない。そこにあるのはフェイクでありプロパガンダであり、偽旗作戦だ。ロシアはあらゆる手段を使って情報戦争を仕掛けている。「言論の自由」を看板とするマスク・ツイッターは、メディアとしてこの問題にどう対処するのか。もとより言論にとって自由は絶対に守るべき「聖域」だ。だがそれは言うほど簡単ではない。ツイッターはいまや社会的公共財だ。マスク氏は本気なのか。金持ちの戯れとしか思えない。