円相場が急落している。きのう1ドル=128円台に乗せたと思ったら、けさは129円台の取引になっている。理由はいろいろある。コロナ禍にロシアによるウクライナ侵略が重なって原油が高騰、食糧不足に伴う農産品価格の急騰、サプライチェーンの毀損に伴う物流のボトルネック発生など。運送費の急騰が諸物価をさらに押し上げるという悪循環が顕在化している。こうした中で各国中央銀行は競って金融政策を緩和から引き締めに転換している。とりわけ3月に0.25%利上げしたFRBは、5月にさらに0.5%利上げに踏み切る意向を示している。地区連銀総裁の中には0.75%の

利上げを支持する向きも出始めている。パウエルFRB議長の最近の表情には“焦り”の色が見え隠れしている気がする。対する黒田日銀。異次元緩和(ゼロ金利+量的緩和)を維持する姿勢を頑なに守っている。だが表情は限りなく暗い。

円安の原因は内外金利差の拡大だと思っていた。それも一因だが、裏にはもっと深刻な要因が潜んでいるようだ。きのう久しぶりに日本総研のオンライン勉強会に参加した。講師は主席研究員の河村小百合氏。最近の円安について概要以下のような指摘をした。コロナ禍やロシアのウクライナ侵略といった異常事態の中で、欧米主要国は財政再建や異次元緩和からの脱却など財政金融政策の正常化に着手している。正常化への道筋は決して平坦ではないが、「日本は初歩的な議論すらしていない」。インフレが加速しているのに日銀は、これまで通り「長期金利を押さえ込もうとしている」。こんな日銀の姿勢に海外の投資家が気づき始めた。そして「冷ややかな目線が円相場に注がれている」と。久しぶりに政府・日銀に対する真っ当な批判を聞いた気がする。その通りだと思う。円安ではない。「日本売り」が始まろうとしているのだ。

デフレ脱却を目指した異次元緩和は、ゼロ金利と国債の大量購入、それに長期金利を人為的に抑え込む「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)付量的質的金融緩和」が柱になっている。その政策の転換は有り体に言えば金利の引き上げだ。いわゆる出口戦略だが、それを実施した途端に財政が窮屈になる。大量に発行した国債の利払いが一気に増えるのだ。それ以上に500兆円以上の国債を抱え込んだ日銀の財務が破綻する。河村氏は「日銀が債務超過に陥る可能性すらある」と警告する。日銀の財務破綻は円の信用失墜に直結する。そんな危機が迫っている。だが、政府・日銀は「議論すらしていない」。そこに世界中の為替ディラーが付け込み始めたといいうわけだ。為替介入に踏み切れば、世界中の投資家の餌食になるのは目に見えている。それでも岸田政権は何もしない。きのう自民党と公明党は物価対策を議論した。焦点は財源を補正予算で組むか予備費で賄うかだ。ピントがずれている。