けさネットでニュースを検索していて面白い記事を見つけた。安倍元首相が「日銀は政府の子会社」と発言したというのだ。子会社の日銀が政府の借金を肩代わりしてくれる。だから国債の残高が1000兆円を超えても「心配する必要はない」と強調したのだ。この発言に対してメディアが早速反応、安倍氏を軽率だと批判している。日刊ゲンダイはもっと辛辣だ。「口を開くたびに妄言が飛び出す安倍氏。誰かが『少しはおとなしくしていろ』と諭すべきではないのか」と不快感丸出しだ。財務省は10日に「国の長期債務残高が3月末時点で1017兆1072億円になった」と発表している。安倍発言はおそらくこれを受けたものだろう。「孫の代まで負担が残る」と不安を煽る財務省を牽制する意図があったのではないか。その意図はともかくとしてこの発言、問題発言であることに変わりはない。

そもそも論で言えば、政府と日銀の蜜月は第2次安倍政権がスタートした翌年(2013年)1月、両者が「共同声明」を発表した時に始まっている。この声明は「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携」を謳ったもの。両者が連携して日本経済の再建を進めることを強調したものだ。本来政府から独立しているはずの日銀が共同声明に署名すること自体が異例だ。この時点で日銀の独立性は怪しくなった。その上に安倍首相は、辞任を表明した白川方明氏の後任に財務省出身の黒田東彦氏を指名したのだ。政府が日銀の株式の過半を持っているのは事実だが、日銀の「子会社化」はこの共同声明と黒田総裁の就任で始まったといっても過言ではない。ここから日銀による国債の大量購入、いわゆる異次元緩和がスタートした。政府は財政再建を追求しながら国債を大量発行する体制を整えたのだ。本来なら無理筋の政策だが、「日銀の子会社化」でこの矛盾を相殺したのだ。

これは一時的に成功した。バブル崩壊から続いていたデフレが背景あったからだ。異次元緩和それ自体が、超低金利を背景に成り立つ手段にすぎない。だが、コロナとウクライナ戦争を機に世の中の雰囲気がガラリと変わった。超低金利はもはや過ぎ去った過去の話。FRBやECBをはじめ各国中央銀行はいま、こぞって利上げを競っている。日本でもガソリンや食料品を中心に足元にジワジワとインフレが迫っている。にもかかわらずコロナ対策で財政は国債の大量発行を余儀なくされている。金利上昇による利払い費の負担急増を考えれば、国債増発にブレーキがかかって然るべきだ。だが日本ではそんな心配は杞憂だ。国債を買い入れた子会社が満期時に借り換えれば済む。これが安倍氏の主張だ。それはその通りだが、問題は世界中がインフレ化していることだ。MMTだって「インフレでない限り」という前提条件付きで国債の無制限発行を認めているにすぎない。安倍氏は的を外した。本来なら「普段は大丈夫だがインフレ時には気をつけろ」と言うべきだった。