有事に備えるための「経済安全保障推進法」が昨日、参院で可決成立した。岸田政権の看板政策の一つだ。前から気になっていたが、何が議論されているか、ほとんど知らなかった。ロシアのウクライナ侵略で毎日、悲惨な戦場の様子が放送されている。あって当たり前の法律だという気がする。法案の成立を受けて改めて内容を確認しようという気になった。日経新聞によると柱は4つ。①半導体など戦略物資調達の財政支援②電気や金融など14業種のインフラの事前審査③AIや量子技術など先端技術の官民協力④軍事転用の恐れのある特許の非公開化。コロナでマスク不足が顕在化した時の“窮地”が頭に浮かんでくる。戦略的に重要な物資は有事に直面する前から手当しておくべきだ。法案が成立してから勉強するようでは、とてもではないが“有事”には間に合わない。そういうことだろう。

日本でもようやく経済安全法制が成立した。日経新聞によると「推進法の成立は有事に備える意味で一歩前進だ。一方で有事への対処が可能にならなければ、画餅に帰す。推進法そのものの不断の補強も欠かせない。米欧が導入済みの機密情報を扱う人物をどう制限するかなど基準づくりは遅れている」。どうやらこの法制、経済の安全保障という面では一歩前進ということのようだ。だが、裏を返せばやらなければならないことがまだ山ほどあるということを意味している。最たるものは日本人の安全を担保する“全体最適”の確保がどこにもないということだろう。日本人の大半は、米国の核の傘のもとにいれば“安全”だと考えている。他人まかせの安全保障意識。ウクライナのような危機を経験したことがない日本人にはもともと有事意識が欠如している。日本人にとって安全保障は空気のようなものだ。そこにあるものと思っている。だからウクライナのように防空壕がない。

その日本人はいったんことが起こると大騒ぎする。マスクを求めて長蛇の列を作ったのはつい昨日のことだ。半導体不足が身に迫って「台湾積体電路製造(TSMC)」の誘致に動いた。この法律に基づいて政府はTSMCに対して莫大な金融支援を行う。日本がかつて半導体大国だったことはきれいさっぱり忘れている。過去は問うまえ。エネルギーのほぼ100%を海外に依存している日本のエネルギー戦略は大丈夫か。国連食糧農業機関(FAO)は2050年には世界の人口が100億人を突破、地球は食糧危機に見舞われると警鐘を鳴らしている。需給率の低い日本で食糧不足が起これば、その惨状はマスクの比ではない。魚も木材も輸入に頼っている。足りないものは山ほどある。有り余っているのは政府や官僚、学識経験者などがまとめる机上の“総論”だ。このギャップを埋めるには、国民の間に有事意識を浸透させる必要がある。そこが最大の課題だろう。