きのうNYダウが1200ドル近く暴落した。小売り大手・ターゲットの業績悪化を嫌気した投資家が不安感を増幅させ、売りが売りを呼ぶ展開になったのが原因のようだ。ブルーバーグによると米国の4月の消費者物価統計(CPI)のうち食品の上昇率は前年比で+9.4%、生産者物価(PPI)は同+18%となっている。生産者物価は2〜3カ月後に消費者物価に反映されるといわれている。消費者物価はこの先さらに上がるということだ。ターゲット株を売った投資家はこうした経済の近未来を先取りしたのだろう。先に決算を発表した最大手・ウォルマートの決算も悪かった。景気の悪化にインフレの進行、さすがの米経済にもスタグフレーションの影が忍びよる。これが株価暴落の遠因だろう。だが、ことは米国だけではない。地球規模でも戦争、熱波、食糧危機が忍び寄っている。

NYダウはひょっとすると、それを先取りしているのではないか。戦争は言うまでもない。プーチンのウクライナ侵略だ。ウクライナは世界第7位の小麦生産大国だ。同国最大の輸出港はオデッサにある。ここをプーチンが封鎖しているため、小麦の輸出が滞っている。それで価格が暴騰した。それだけではない。来年の収穫に向けた作付けがでず、小麦農家は壊滅的な被害を受けている。まだある。世界第2位の生産大国はインド。インドはいま、連日40度を超える熱波に見舞われている。ペルー沖の太平洋の海水温が上昇、いわゆるエルニーニョ現象に伴う影響だ。エルニーニョが発生すると一部地域で温度が急上昇する。その一つがインドだ。モディ首相は先日小麦の輸出を禁止した。熱波による不作を見込んで、国内の需要を賄うための防衛戦に打って出たのだ。おかげで港は小麦を積んだトラックで溢れかえっている。ウクライナとインドの輸出が止まれば、世界中の小麦価格が急騰する。

これが米国の消費者物価にも反映しはじめた。だが問題は小麦価格の高騰だけでは済まない。世界には飢餓で苦しむ人たちが8億人以上いるといわれている。この人たちが一段と苦境に追い込まれようとしている。プーチンがウクライナの輸出を認めれば、飢餓で苦しむ人々の何割かは救済される。だが、プーチンの頭の中にそんな思いは欠片もない。始末に負えないのが北朝鮮だ。サリバン米大統領補佐官は北朝鮮がバイデン大統領の日韓両国訪問に合わせ、ICBMの発射実験と核実験を行う可能性が高いと警告している。おまけに中国は尖閣諸島周辺で海警局が示威行動を繰り返している。「いまそんな時か」、心の中でいくら叫んでも犬の遠吠えにすぎない。荒れているのは気象条件だけではない。強権国家の指導者の心が乱れている。NYダウ暴落の記事を読みながら、地球の悲鳴が聞こえるような気がした。