政府の衆院選挙区画定審議会(区割り審、会長・川人貞史帝京大教授)は16日、小選挙区数を「10増10減」し、「1票の格差」を是正する区割り改定案を決定し、岸田首相に勧告した。いわゆる一票の格差解消を目指した小選挙区の新しい区割り案がまとまったというニュースだ。政府はこの勧告を受けて秋の臨時国会に公選法改正案の改正案を提出する。読売新聞オンラインによると、見直しの対象は25都道府県の140選挙区に上り、いずれも過去最多になった。今回の改正案は2020年の国政調査に基づいて作成され、改正案が成立すれば格差は現行の最大2・096倍から1・999倍に縮小する。一票の格差は「法の下の平等」(憲法14条)に違反する。最高裁もこれまで何度となく違憲判決を下している。その都度改正が行われてきた。必要不可欠な改正ではある。だが、これによって格差が解消される保証はない。

そもそも一票の格差をなくすことは可能なのか。2倍以内なら合憲で、2倍を超えると違憲というのも、最高裁の裁量的判断にすぎない。法のもとの平等をいうなら、一票の重みは均一にすべきだろう。歴史的経緯や地域の実情、地理的条件等を考えれば格差をゼロにすることは不可能に近い。だからどこかで折り合うしかない。それが「2倍」ということか。最大で2倍の格差は依然として残る。だが、それを気にする有権者は果たして何人いるだろうか。一票の重みより地域格差の方が大きい。地域格差の解消は国土の均一な発展の土台である。地方創生という名の下に過疎地域をはじめ地方の復権が叫ばれている。地方創生には国会議員の果たす役割が大きい。だが、該当する選挙区の議員は削られ、人口が増えている地域の議員は増員される。国会議員が減れば地元への利益還元も減少する。地方はますます困窮する。

地方創生を諦めて一票の格差を是正すべきか。有権者の大半はそんなことは求めていない。政府も有権者も、地方創生と一票の格差は別の問題と考えている。だから地方創生も一票の格差解消も同じように推進する。現に岸田政権は秋の臨時国会に公職選挙法の改正案を提出する予定だ。要するにアクセルを踏みながらブレーキをかけている。優先順位が不明確というよりも、政策の体系化ができていないのだ。地方創生を優先するために一票の格差には目をつぶる。こうした大局的な政策判断ができない。安倍政権がデフレ脱却を目指しながら消費増税(デフレ政策)に踏み切ったことと同じだ。脱炭素に向けたグリーン政策にも、大都市への集中排除と地方復権を連動させる発想がない。国会議員はますます大都会に集中し地方の発言力は衰退する。一票の格差解消に大義はあるのだろうか・・・。