緊迫しているのはウクライナ情勢だけではなさそうだ。自公連立による安定政権が続く国内でも水面化が俄かに慌ただしくなってきた。参院選が始まったこともある。与野党入り乱れて他党を批判するボルテージが上がっている。大規模緩和政策を維持すると主張する岸田首相に対して泉立憲民主党代表は、インフレ無策の同首相を「岸田インフレ」と攻撃する。ウクライナ戦争はエネルギーの安定供給に強烈な楔を打ち込んだ。現状のままでは世界中が電力不足に陥る可能性がある。バイデン大統領は連邦ガソリン税を3カ月凍結するよう議会に要請した。ロシアに対する経済制裁が自国の物価高に跳ね返ってきた。11月の中間選挙を控えて支持率が低迷する同大統領も必死だ。ドイツは火力発電所を当面の電力不足対策として稼働させる。カーボンニュートラルのリーダー格ともいうべきドイツ。背に腹は変えられない。

そんな中で比較的安泰だった日本。どこまで本気かわからないが岸田首相も、5年かけて防衛費を倍増させると宣言した。その一方で財政健全化の旗はおろそうとしない。足元の自民党では「財政健全化推進本部」(額賀本部長)と「財政政策検討本部」(西田本部長)が財政運営をめぐって対立。推進本部の顧問は麻生副総裁、検討本部は安倍元首相だ。来年度の予算方針を盛り込んだ「骨太の方針」作成にあたって両本部が激突。安倍・麻生の手打ちで妥協を図ったが、財務省中心に財政健全化路線を追求する勢力が陰に陽に歳出削減をめざした活動を本格化させている。そこにふって沸いたように絡まってきたのが「家計はインフレを受け入れている」という黒田日銀総裁の失言問題。国会に呼ばれた黒田氏が「誤解を招いた」として発言を撤回して表面的には収まっているが、水面下で新たな戦いが始まっている。アベノミクスの転換を目指す勢力の台頭だ。

やり玉に上がっているのが“3本の矢”の象徴でもある黒田総裁だ。失言を謝罪し発言を撤回する一方で、大規模緩和政策を一段と急進化させている。その筆頭が国債を無制限に買い入れる「指し値オペ(公開市場操作)」の恒常的な実施。これを好機と見た機関投資は連日国債に売り圧力をかけている。日銀が金利を抑え込めば円キャリー取引が復活する。円を売ってドルを買う取引で円安が一段と加速する。円安が進行すれば国債の利回りは急騰する。機関投資家に有利だ。こんな状況を睨みながら岸田首相は“安倍離れ”を画策する。一部の週刊誌が参院選挙後に首相は黒田総裁を解任する準備を進めていると報じた。週刊誌一流の「読ませる記事」に過ぎないと思うが、あり得ない話ではない。なんとなればネタもとは岸田政権ではなく財務省だからだ。岸田首相のブレーンは誰もが認め通り財務省だ。防衛事務次官の交代もこの線で動いている。岸田首相のもとで財務省の復権が始まったのかもしれない。それで日本が良くなればいいのだが、おそらくそうはならないだろう・・・。