米最高裁(判事9人)は先週、中絶を違憲とする判決を言い渡した。B B Cによると判決内容は以下のとおり。「最高裁は、妊娠15週以降の中絶を禁止するミシシッピー州法は、『ロー対ウェイド』判決などに照らして違憲だとする同州のクリニックの訴えについて、6対3で違憲ではないと判断した」。人工妊娠中絶を憲法上の権利と認める1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆した。評決は違憲判断に賛成6人、反対3人。共和党系(6人)と民主党系(3人)の判事の数と全く同じ評決。最高裁が約50年前に示した判例を自らひっくり返す異例の判決となった。これを機に中絶賛成派と反対派の対立が激化、賛成派は最高裁前でデモ行進を行うなど保守化する最高裁へ抗議した。

トランプ前大統領の登場で広がった共和党と民主党の溝。この判決を機に両党の間の溝はさらに拡大しそうだ。バイデン大統領はこの判決を受けて「最高裁にとって、そしてこの国にとって悲しい日だ」(B B C)とコメントした。これに対してトランプ前大統領は「中絶反対派にとって『最大の勝利だ』と強調。公約を実現し、最高裁判事に3人の強力な立憲主義者を指名したことで可能になった」(毎日新聞)との声明を発表している。両大統領の見解の違いはそのまま二分する米国の現状を映し出している。11月に中間選挙を控え、また一つ米国の分断に拍車をかけるテーマが増えたことになる。今回の判決でもう一つ機になるのはメディアだ。新聞もテレビも通信社も、どちらかというと最高裁判決を批判する論調が多い。

メディアの論調は単なるポリコレだとは思わないが、真っ二つに分かれている国内世論に拍車をかける報道が多い気がする。世論が二分している問題に対する報道はいかにあるべきか、明確な答えがないことも事実。判事9人のうち5人が賛成すれば判例は成立する。とはいえ、6人の保守派判事のうち3人を指名したトランプ前大統領の責任を言い立ててもあまり意味がない。終身雇用の判事は死亡するか本人が辞任しない限り、大統領に任命する権限は回ってこない。問題は移民や銃規制、環境政策と同じように中絶問題が政治問題化していることだ。政治問題化しているテーマをメディアは政治的なプロセスの中で扱おうとしている。ならばどうすべきか、答えがあるわけではない。できるかどうかわからないが、政治プロセスから引き離す報道はないのだろうか・・・。