先週、インフレ懸念が瞬間的に緩和したようにみえた。ロイターによると「米商務省が30日発表した5月の個人消費支出(PCE)は前月より0.2%増加したものの、増加率は過去5カ月で最小となり、予想の0.4%も下回った」とある。同通信はこの結果について、「物価上昇で消費が抑制されており、第2・四半期の初めに見られた回復の失速が改めて裏付けられた」と解説している。要するに米国の消費者はインフレを警戒して財布の紐を引き締め始めたというのだ。経済の教科書によればインフレの進行は消費者の買い急ぎを助長する。供給を上回る需要が発生するため物価が上昇する。これは悪い物価上昇だ。これに対して5月の消費支出統計は、「買い控えが起こっている」とロイターは読み解いている。これが事実だとすれば米消費者は「インフレは長続きしない」と見ているのだろう。
「金融を引き締めるのが遅すぎた」とF R Bを批判しているサマーズ元米財務長官は、こうした動きに対して次のような見解を示している。「リセッション(景気後退)入りがより早期に始まるリスクが高まっている」(ブルームバーグ)、「景気後退が現実となった場合にはインフレは減速する可能性がある」(同)と。なんのことはない、景気が後退してインフレが収束するというのだ。これはスタグフレーションではない。引き締めによって景気が悪化するとの見通しだ。問題はインフレの根源ともいうべき原油をはじめとしたエネルギー価格の動向だ。世界最大の独立系石油商社ビトル・グループによると、「(石油製品の)価格高騰により経済的ストレスが起きているという非常に明確な兆候があり、需要破壊だとの声も一部にある」と指摘する。買い控えというような生やさしいものではなく、「需要破壊」だというのだ。石油関連製品の需要を破壊しているだけではない。あらゆる需要を破壊するのだ。
問題は需要が破壊されたあと石油製品の価格が下がるかどうかだ。同社によると原油を精製する際の利ざやは、「バレル当たり50ドルに達した。これは今世紀の平均の3倍余り」になっているそうだ。そして「精製マージンはこれ以上上昇しないだろう」と予測する。だが、下がるとも言っていない。要するにマージンが下がらない限り、インフレは高止まりせざるを得ない。これから先は価格プラスマージンの低下速度と景気の後退速度の競争ということになる。価格だってO P E Cが減産すれば高止まりする。サマーズ氏の見解とビトル・グリープの見通しを足し合わせれば、景気は後退しインフレは高止まりせざるを得ない、ということになる。つまり世界はスタグフレーションに向かって突き進んでいるということになる。
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