中国で深刻化しつつある不動産不況は同国に4億人いるミドルクラス(中間所得者層)に衝撃を与え、不動産は確実な蓄財方法との概念を覆しつつある。

  不動産開発が各地で停滞し、住宅価格が下落する中、多くの住宅所有者は支出を削減しているほか、結婚など人生の重要イベントを先送りし、未完成物件の住宅ローンの支払いを差し控えるケースも増えている。

  例えばピーターさんは起業も高級車「BMW5シリーズ」の購入も断念した。河南省の省都・鄭州にある自宅200万元(約4030万円)相当の建設を中国奥園集団が停止したためで、この完成しないかもしれない住宅のローンに可処分所得の90%を奪われている。

  「全ての投資にはリスクが伴い、自分の選択の代償を支払わなければならないことは分かっている。しかし、住宅所有者に責任はなく、しわ寄せがいくべきではない」と、ピーターさんは報復への懸念からフルネームや個人情報を使わないことを条件に語った。

武漢にある中国恒大集団の未完成の集合住宅Photographer:Andrea Verdelli / Bloomberg

  奥園や中国恒大集団などの不動産開発業者がプロジェクトを停止したことを受け、中国の90都市余りでピーターさんら数十万人の住宅購入者が計2兆元の住宅ローンの支払いを拒否。総資産の70%が住宅関連と推定されるミドルクラスで、返済ボイコットに加わる人が増えており、経済・社会の安定に脅威をもたらしている。

  中国当局は現在、状況打開を急いでおり、ローン支払いの猶予期間を設けたり、地方政府や銀行が開発に介入・救済するといった案も出ている。

  ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリスト、クリスティ・フン氏の試算によると、建設停止の影響は中国の住宅計4兆7000億元相当に及ぶ可能性があり、そうした未完成物件を完成させるには最大1兆4000億元、つまり国内総生産(GDP)の約1.3%相当が必要となる可能性がある。

  中国の住宅価格は10カ月連続で下落し、1人当たりの可処分所得は4-6月(第2四半期)に5四半期連続で縮小した。過去10年の借り入れブームを背景に、2021年末の中国の家計債務は対GDP比で61.6%と、11年末の27.8%から上昇。それでもなお、米国や日本などと比べれば低い水準にある。

  交銀国際の中国担当ストラテジストだった洪灝氏は住宅ローンの返済ボイコットが住宅価格と販売を抑制し、経済全体に波及する負の資産効果を生み出すと予測。不動産市場について、「良い投資先だとは思わない。かつては住宅価格が下がることは決してないと考える人が多かったが、パラダイムシフトが起きている」と指摘した。

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原題:China’s Property Crisis Burns Middle Class Stuck With Huge Loans(抜粋)