中国の景気対策が緊迫の度を増している。今月16日、李国強首相は広東、江蘇、浙江省など主要6省庁高官とビデオ会議を開き、「経済回復の基盤を固めるため危機感を強めなければならない」(ロイター)と訴えた。これに連動して人民銀行はこの日、1年物の「中期貸出制度(MLF)」の金利を引き下げた。中国はゼロコロナ対策やウクライナ戦争の影響で経済活動が停滞している。とりわけ不動産業界は恒大集団の例を持ち出すまでもなく、莫大な不良債権を抱え業界全体が生死の境をさまよっているような状況にある。一説によると中国では14億人の人口に対して30億人分の住宅が供給されているともいわれる。さすがにこれは為にする誇大表現だとしても、需要を上回る過剰供給を長年にわたって続けてきた結果、不良債権が急増するという最悪の結果を招いているのだ。まるで日本のバブル崩壊をみるようだ。

7月には住宅業界が資金難に陥り、約束した住宅が完成できないといった事態が多発。住宅の完成を前提にローンを組んだ購入者が支払い拒否に打って出るという事態が全国的に表面化した。ここにきて住宅不況は経済全体にも悪影響を及ぼし始めている。これに危機感を覚えた政府は、ここにきて矢継ぎ早に不動産対策を打ち始めた。昨日、人民銀行が1年ものと5年物のLPR(ローンプライムレート)を引き下げた。5年物のLPRは住宅ローン金利に連動しており、今回の利下げによって住宅ローン金利の低下が見込まれている。とはいえ引き下げ幅は0.05%~0.15%にとどまる。だから専門家の多くはさらなる引き下げが必要と主張する。小出しの支援策では、現在の住宅業界が陥っている苦境は取り繕えないということだろう。ブルーバーグによると中国当局は、不動産開発会社向け特別融資を計画しているという。融資額は総額で2000億元(約4兆円)に達するとしているが、具体化するかどうか定かではない。

というのも、米国を中心に世界の主要国はいま、インフレ対策として政策金利を引き上げている。中国が大幅な利下げに踏み切れば、インフレを加速する可能性が高まるだけではない。米金利との格差拡大で資金が海外に流出する恐れがあるのだ。人民銀行にとっては痛し痒しの決断だった。それ以上に影響が大きいのは地方政府だ。中国では土地は国有化されており、不動産の売買はできない。代わりに土地の利用権が売買されている。地方政府がこの利用権を発行している。住宅産業は地方政府にとっては打出の小槌でもあるわけだ。要するに地方政府の資金繰りに直結している。過剰供給の原因はもっぱら地方政府の資金繰りに起因しているとの説もある。中国の住宅不況には複雑な要因が絡んでいる。金利を下げただけで不況が改善するはずもない。習近平政権に未来はあるのだろうか。ひとごとながら心配になる。

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