英国が揺れている。ジョンソン首相の後を受けて就任したトラス新首相が打ち出した経済対策があまりにも大胆で、かつ富裕層に偏っていることから市場の動揺を招いてしまった。ロイターによると、エコノミストのジュリアン・ジェソップ氏は28日、英国経済が通貨安と金利上昇の「破滅のループ」に陥る恐れがあると警告した、という。ことの起こりはトラス新首相の経済政策にある。次期首相を決める保守党の選挙戦で同氏は大幅な減税と家庭のエネルギー負担の大胆な低減を公約した。9月6日に首相に就任したトラス氏、翌7日に内閣を組閣、8日には「家計のエネルギー料金の上限を2年間、年2500ポンド程度に抑える」とした家計支援計画を発表した。異例のスピード感だ。23日には財務大臣に就任したクワーテング氏が富裕層を軸とした減税案を発表している。

首相就任後間髪をおかずに重要政策が決まるスピード感に、英国民はほのかな期待をか抱いたのかもしれない。だが専門家は違った。ロイターによると英中銀金融政策委員会(MPC)の元メンバー、マーティン・ウィール氏は、トラス氏の経済対策について「失敗に終わる」と断言、ポンド売りを引き起こすと警告していた。結果はその通りになった。ポンドが売られ、株価が急落、金利が急激に上昇するという「破滅のループ」に陥ったのである。たまりかねたのが中央銀行であるイングランド銀行(BOE)だ。国債市場の崩壊を防ぐため英国の長期国債を無制限で購入すると表明、市場介入に踏み切った。なにやら円暴落にたまりかねた日本政府が為替市場に介入したことに似ている。違いは日本が円安を無視する日銀を嗜めるように為替市場に介入したのに対し英国は、暴走気味の政府の尻拭いをするかのように中央銀行が国債市場に介入したことだ。

どっちもどっちだが、BOEの介入は期限付き、期限が定まっていない日本政府の為替介入し比べるとメリハリがついている気がする。それはそれとしてトラス氏の経済政策は新鮮味に欠けることも事実。例えば減税策。45%の所得税最高税率を廃止するなど富裕層に軸足を置いているのが特徴だ。これは富裕層を活性化することによって貧困層まで富が滴り落ちるという、例のトリクルダウンの発想だ。トラス氏はサッチャー元首相を尊敬していると言われる。すでに世界中で見直しが始まっている新自由主義、これに依存したような経済政策はあまりにも古臭い気がする。減税に加え家計のエネルギー支援には膨大な財源が必要になる。新政策はインフレ加速要因でもある。中間選挙を控え水面下でバイデン大統領が英国に政策の見直しを要求しているとも伝えられている。トラス氏、任早々に早くも大きな試練に直面している。