岸田内閣は1年前のきょう、4日に発足した。もう1年か、時の流れの速さを改めて実感する。満1年に当たるきのう臨時国会が召集され、首相になって4回目の所信表明演説が行われた。どんな内容だったのか、今朝、メディアが報じる内容をチェックしてみた。単刀直入にいえばありきたりの内容だった。各種の政策を羅列しているが、この程度のことはニュースを読めばほとんどわかる。肝心なのは訴える力だ。首相になって何をやりたいのか、心の奥深くに秘めるその“思い”を一言でもいいから盛り込めば、視聴者の心を鷲掴みにできる。それが全く感じられない演説だった。国会で鋭く切り込んでくる野党の質問に答える能力はある。だが、政策実現に向けた熱い思いが伝わってこない。体裁を整えた官僚の作文、これに自分の思いを書き加える能力がこの人には欠けているのではないか、そんな気がした。

首相は「日本を守り、未来を切り拓く覚悟を新たにしています」と所信表明演説を切り出す。「世界が、そして日本が直面する歴史的な難局を乗り越え、我が国の未来を切り拓くために、政策を、一つひとつ果断に、かつ丁寧に実行していきます」。特に異論はない。「はじめに」で展開する首相の所信表明は誰がやってもこんなものだろう。問題は次から始まる各論に“肝”がないことだ。現下の最大のテーマは賃上げだ。「日本では長年に渡りなぜ大幅な賃上げが実現しないのか」、自問する首相。「賃上げが、高いスキルの人材を惹きつけ、企業の生産性を向上させ、さらなる賃上げを生むという好循環が、機能していないという構造的な問題があります」と自答する。なるほど、一理はある。じゃあ、どうする。期待が膨らむ。具体的に何をする。首相は原稿に目を落としながら徐に宣言する。「物価高が進み、賃上げが喫緊の課題となっている今こそ、この積年の大問題に挑み、『構造的な賃上げ』の実現を目指します」。

えっ、何、なんだよ、それ。思わず叫びたくなった。挑めば大問題は解決するのか、歴代の首相が果敢に挑み、なおかつ解決されなかった問題ではないのか。聞きたいのは、どうやって実現するか、その方法だ。実現を目指す程度のことは誰だって言える。首相も気にしているのだろう。次に解決策らしきものを提示する。「官民が連携して、現下の物価上昇に見合う賃上げの実現に取り組みます」、「(看護、介護、保育など公的価格の引き上げについても)現場で働く方々の処遇改善や業務の効率化、負担軽減を進めます」だと。だめだ、こりゃ!この程度のことは係長クラスでも言える。消費税を下げれば賃上げと同じ効果が出る。賃上げしない企業の法人税を引き上げるといえば、内部留保を積み増している企業は必死になるだろう。日銀総裁を解任して金利を上げるのも一考だ。問題は賃上げと同じように、岸田政権の掲げる政策がすべからく“曖昧”なことだ。これでは支持率も下がるだろう。