円相場が150円を突破した。今更何をかいわんやだ。財務省は介入するぞと脅しながら、事態を「緊張感を持って」見守るだけ。黒田日銀総裁は国会で「急激な円安は日本経済にとってマイナス」との見解を示す。円安の原因を作り出しているのは黒田総裁そのひと。国会答弁の白々しさが際立つ。鈴木俊一財務相は「これからも細かく緊張感を持って、動向をしっかりと見ていきたい」と語るのみ。官僚の作成した文書を読み、メディアはそれを何の批判もなくキャリーするだけ。はっきりいって市場は日本政府・日銀の間違った経済運営に従って、円売りという行動を起こしているだけだ。岸田総理は物価対策を講じると国会で答弁するが、日銀の金融政策については何一つ発言していない。いや、「金融政策については日銀の判断を尊重する」との趣旨の発言を繰り返すだけ。これでは日本経済につきまとう難題は何一つ解決しない。

金融緩和の一方、為替介入で円を大量に買い入れる。明らかに矛盾している。矛盾にマーケットは気がついている。だが、権力は財務省・日銀の手にある。為替介入はディールの損益を悪化させる。日経新聞によると「円相場が150円を突破したのは20日午後4時40分ごろ。朝方から149円90銭台を中心とした神経質な取引を続けた末、ようやく150円の大台に乗せた。午後4時15分ごろに149円99銭に下げてから、わずか1銭の円安が進むのに25分を要した」とある。政府による為替介入を恐れながらのディールだったことを、この25分は物語っている。だが、政府・日銀は介入に踏み切らなかった。推測だが、介入しても意味がないことを理解しているのだろう。ではこれから先、市場の成り行きに任せるのか。そんな決断もできない。日本経済はこのままだとどんどん弱体化する。介入したくないのだが、やらざるを得ない。そんな心境だろう。

円安の要因は日米の金利差だけではない。日経新聞は「円安が止まらないのは低金利依存から抜け出せない日本経済の弱さを突かれているためで、底の見えない展開となっている」と見る。これも違う。日本経済は金利を上げても耐えられる。だが、10年続いた黒田日銀のゼロ金利政策によって、そこから「抜け出せない」のではなく「抜け出せないと思い込んでいる」のだ。ゼロ金利には「淘汰されるべき収益力の低い企業が生き残る」効果がある。低金利がゾンビ企業の存在を可能にし、生産性の足を引っ張っている。ゼロ金利は日本人の健全な競争心を奪っているのだ。市場の反乱で英国のトラス首相はたった6週間で辞任に追い込まれた。日本の市場は円を売るという正しい行動を志向している。それを力で押さえつけようとしている政府・日銀、これが日本の未来を暗くしている。岸田総理はそこがわかっていないのではないか。円安を止められるのは金融・財政を含めた正しい経済運営だけだ。