岸田首相は先週の金曜日(28日)、臨時閣議でインフレ対策などを盛り込んだ総合経済対策を決定した。財政規模が39兆円、総事業規模が71.6兆円という補正予算史上最大規模の対策だ。日本経済の需給ギャップが20兆円〜30兆円に達するという中で、今回の対策はそのギャップを埋めて余りある内容になった。デフレ脱却の決め手は財政支出の規模だけではないが、首相としては思い切った決断に見える。煮え切らない、タイミングが遅い等々、とかく批判の多い首相にとっては驚きの“決断”と言っていいだろう。多くのメディアは支持率の低下を意識したものと解説する。理由はともあれこれが日本経済のデフレ脱却につながれば、首相の支持率がどうなろうと結構なことだと思う。個人的には今回の決定を評価したい。ただ少し残念な点はエネルギー対策など家計の負担軽減策は盛り込まれたものの、可処分所得の増大など家計の余裕拡大につながるような対策が依然として迫力不足な点だ。

28日夕の臨時閣議で決まった対策の概要は以下のとおりだ。財政出動39.0兆円、事業規模71.6兆円。財政出動のうち国の支出である国費は35.6兆円。うち29.6兆円が真水。一般会計で29.1兆円、特別会計で0.5兆円、地方が7.6兆円をまかない。残りは財政投融資となる。電気・ガス料金の家計負担緩和策や、ガソリンなどの激変緩和措置の継続で、標準的世帯では1世帯あたり年間で総額4万5000円の負担が軽減される見込み。また妊産婦には10万円の経済的支援を実施する。これに民間の負担分を加えた総事規模は71.6兆円となる。政府はこれで消費者物価指数(CPI、総合)上昇率が1.2%ポイント程度抑制できると試算している。物価高や円安に伴うマイナスを相殺するほか、世界的な景気下振れリスクに備える。実質国内総生産(GDP)の押し上げ効果は4.6%程度と見積もられている。問題は来年の春闘における賃上げだ。

岸田首相はガイドラインを定めて大幅な賃上げを目指すと強調している。連合は早くも来春闘の賃上げ目標を5%とすることを決めている。インフレの加速、円安、大規模経済対策など賃上げの環境は整いつつある。その一方で経済界からは経済の先行きが不透明なことから、大幅な賃上げは「難しい」との否定的な観測も漏れてくる。デフレの完全脱却ができるかどうか、最終的にはここがポイントになるだろう。安倍・菅政権時代には政労使協議を梃子に大幅な賃上げを目指したが、十分に効果が発揮されないまま問題は岸田政権に引き継がれた。手始めが今回の大規模経済対策だが、エネルギー対策など正直に言って「後追い的」な家計支援策という側面は否定できない。新しい資本主義もお題目はともかくとして現実の対策としては迫力不足。国ができる最大の家計支援策は国民負担の軽減だが、医療費も年金も健康保険も実質的には負担が増大しそうな雰囲気だ。家計は余裕を取り戻せるか、日本経済の先行きはこの一点にかかっている。