米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が今朝方未明、ワシントンのブルックリン研究所で講演した。ポイントは「早ければ12月にも利上げペースを縮小する可能性がある」との認識を示したことと、「インフレとの戦いはまだ終わっておらず、まだまだ続く」とマーケットの楽観的な“期待感”に警鐘を鳴らしたことの2点。気の早いてマーケットは「議長がタカ派からハト派に軸足を移した」と受け止め、NYダウが前日比で740ドル弱急騰した。米国債も利回りが急低下(価格は上昇)、インフレの恐怖が吹き飛んだかのようなはしゃぎぶりだ。市場の期待通りにインフレが収束するか、依然として確証はない。個人的には来年もインフレが続きそうな気がする。引き締め過ぎればリセッションが待っている。インフレと景気後退を睨みながら議長の手探りが続く。微妙な修正の難しさ、これがこの講演の主旨ではないか。

議長発言をロイターの記事から拾ってみる。まずは冒頭の発言。「インフレ引き下げに十分な金利水準に近づくにつれ、利上げペースを緩やかにすることは理にかなっている。その時期は、早ければ12月のFOMCで訪れるかも知れない」。10月のCPIが7.7%に低下するなど利上げ幅縮小の環境は整いつつある。「早ければ12月」も想定の範囲内。特に驚くような発言ではない。問題は次だ。「インフレ抑制に向けてさらにどの程度の利上げが必要か、また、制約的な水準で政策を維持する必要がある期間はどの程度かという問題に比べれば、はるかに重要性が低い」。幅より金利の最終的な水準、引き締め期間の方が遥かに重要だと言っている。12月FOMCでは0.75%から0.50%に上げ幅を縮小するが、それでインフレに終止符が打てるわけではない。「制約的な水準」がどの程度続くか、そちらの方が重要だと強調している。

市場では来年中に利下げが可能になるとの見方も出ている。日銀の黒田総裁は「インフレは一時的で来年には収まる」との根拠のない見通しを再三に渡って強調している。パウエル氏はインフレの先行きを楽観視する雰囲気に警鐘を鳴らしているのだ。「物価の安定を取り戻すには長い道のりがある。過去1年間の金融引き締めや成長率の鈍化にもかかわらず、インフレ率の鈍化に明確な進展は見られない。目標を完遂するまでこの方針を維持する」とスタンスは依然タカ派だ。ターミナルレートの水準も依然はっきりしない。引き締め過ぎればリセッションが待っている。パウエル議長ならびに各国中央銀行の長くて果てしない戦いはまだまだ続く。世界中で猛威を振うインフレに、高みの見物を決め込む政府・日銀。本当に大丈夫なのだろうか、岸田内閣の支持率の低下以上に気になって仕方がない。