サッカーW杯決勝、アルゼンチン対フランスの決勝戦はサッカーファンのみならず、世界中のスポーツ愛好家の記憶に長く刻まれる名勝負となった。勝負は延長線を含めた120分で決着せずP K合戦に持ち込まれた。結果は4−2でアルゼンチンが勝利。3回目の優勝を決めた。勝利の女神はメッシ率いるアルゼンチンに微笑んだものの、どちらが勝ってもおかしくない試合だった。ピッチ上で躍動する選手だけではない。両軍ベンチのタイムリーな選手交代など、監督の手腕もこの勝負を盛り上げた。それだけではない。毅然とした主審のジャッジが白熱の試合を導いた。120分に及んだ勝負の中には、メッシの絶妙なパスやシュート、エムバペの神技に近いダイレクトシュート、両軍ゴールキーパーによる数々のスーパーセーブ。サッカーの醍醐味である精度の高いプレーが随所に散りばめられていた。選手にベンチ、審判団、これにスタンドを埋め尽くしたサポーター、全てが渾然一体となって歴史に残る名勝負が演出された。

試合は前半2−0、アルゼンチンリードで折り返す。後半も終盤に近い35分過ぎごろまではアルゼンチンペース。サポーターをはじめ世界中のファンがこの時点で、アルゼンチの勝利を確信したのではないか。だが、勝負は下駄を履くまで分からない。前後半通じた80分過ぎ、劣勢だったフランスがP Kを獲得する。これで流れは一転してフランスに傾く。P Kをさりげなく決めたエムバペがその1分後、今度は強烈なダイレクトシュートで2−2の同点に追いつく。ここからゲームは両軍の壮絶な攻防戦へと雪崩れ込んでいく。これを死闘というのだろう。2−2のまま延長戦に突入する。延長前半は0−0。後半にものすごいドラマが待っていた。開始早々メッシがゴール前のこぼれ球を押し込んで勝ち越す。誰もがここで勝負はあったと思っただろう。残り時間はあと10分程度だ。ここまで110分、全力で戦い続けた両軍選手に疲れが見え始める。堅守のウクライナはこの1点を守り抜くだろう。そんな雰囲気が漂いはじめていた。

だが勝負は分からない。アルゼンチンがゴール前で再びP Kを献上する。これをエムバペが危なげなく決めて再び振り出しに戻る。ワールドランキング3位と4位の頂上決戦。テレビ観戦しながら勝利の女神はどちらに微笑むのだろうと思った。女神もおそらく悩んでいるのではないか。どちらにしても甲乙つけ難い試合だ。そんな試合が冷酷非情なP K戦で決着する。迷った挙句に勝利の女神は、全試合に出場し、この試合でも120分間チームを引っ張り続けたメッシに、“ご褒美”の微笑みを送ったのではないか。メッシはこの試合が最後のW杯。最優秀選手に輝き、最後の最後にあのマラドーナに並んだ。一方ハットトリックも勝利に結びつかなかったエムバペ。ピッチ上でマクロン大統領が慰労する姿が印象的だった。敗れたとはいえ“エムバペの時代”の幕は切って落とされた。4年後、今度はエムバペがどんなパフォーマンスを見せてくれるか楽しみだ。