[東京 27日 ロイター] – 元財務官でアジア開発銀行(ADB)総裁を務めたみずほリサーチ&テクノロジーズ理事長の中尾武彦氏は27日、ロイターのインタビューに応じ、日銀の実質利上げによる政策転換ついて、次の日銀総裁の負担軽減に資する効果があったと解説した。現状の為替レートは過度な円安で多少の円高方向への動きは問題がないとした。政府・日銀が共有する2%の物価目標については安易な財政政策などの一因になっていると指摘した。

<日銀緩和副作用、円安・財政規律>

欧米の中央銀行が金利引き上げを進めるなか、短期金利をマイナス0.1% 長期金利をプラス0.25%に誘導する長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)による異次元の緩和政策を堅持してきた黒田総裁が、長期金利目標の引き上げを決めたことは市場のサプライズを呼んだ。

理由について中尾氏は「よくわからない」と述べた。一方で、「YCCは、人々の物価感を引き上げつつ金利を低く抑えることで実質金利を引き下げ、デフレの脱却、経済の刺激を図る効果よりも、円安など副作用の方が大きいため、いずれ修正が必要と考えていた」と指摘。今回日銀が長期金利目標引き上げによる実質的な利上げに踏み切ったことで、「来春就任する後任の総裁が、政策修正による住宅ローン・国債金利上昇などマーケットのショックの責任をすべて負担せずに済む効果があったのではないか」と解説した。

これまでの日銀のYCCの副作用として「金融政策が他の国とあまりに異なることが市場から見透かされ、円安に大きく振れた。消費者の負担が増え、輸入企業も困る状態になり、会社も不動産も安い国になった。GDPも個人所得もドル建てでどんどん下がり韓国に肉薄されている」と円安を第一に挙げ、「一言でいうと実質的にドル円360円の時代にもどってしまい、変動相場制スタート以来の50年かけて築いた高所得国の地位から落ちていっている」と述べた。さらに「市場機能が弱くなり、金利を長期までゼロ近傍に固定することで財政規律も弱くなっている。国債を日銀が事実上引き受ける財政ファイナンスになっており、歳出拡大はなんでも国債増発で賄えばよい空気になっている」と警告した。

<利上げで多少の円高、よいのでは>

日銀が今後利上げ方向への政策修正を進めると為替円高が進む可能性がある。中尾氏は「円が強すぎるのは問題であり、自身が財務官時代に、ドル円75円台で大規模なドル買いの為替介入をした。しかし足元の円はいろいろな購買力指標で見て明らかに安すぎる。弱い円で、日本企業も不動産も簡単に海外から買われてしまう。一方、輸出企業の生産拠点は海外に移転しているので、円安による輸出拡大効果は以前より限られる。金利上昇が円安を修正するのはよいことだ」と指摘した。

第2次安倍政権発足直後の2013年に政府と日銀が結んだ政策協定(アコード)について、一部政府内で改訂する議論も浮上している。

中尾氏は「アコードの改訂は重い議論なので軽々には言えないが、2%の物価目標にどこまでこだわるのかというのはある」と述べ、「2%目標は一つの目安と考えれば変更することが良いことかわからないが、それにこだわることが金融・財政政策の硬直性を生んでいる」と指摘した。