「自分たちは間違っていない」。IOCのバッハ会長は12日、アルペンスキーの世界選手権の会場で記者団にこう断言したとBBCが伝えている。ことの起こりは1月。IOCはロシアとベラルーシ選手のパリ五輪への出場について、国を代表しない中立の立場を条件に認めることを示唆した。これに対してウクライナのゼレンスキー大統領が激しく反発。「ロシアとベラルーシが参加するならウクライナはボイコットする」と抗議した。これを機に世界中でIOC批判が巻き起こった。こうした経緯を踏まえて12日、記者がバッハ会長に「IOCが間違っている可能性はないか」と問いかけると、同氏は「ない。私たちはスポーツの使命にふさわしい解決策を見つけようとしている。対立を深めるのではなく、団結させるものだ」、「より平和に貢献しているのは誰なのか、歴史が証明する」と発言した。

バッハ会長がロシアの参加を容認する発言をするたびに同氏に対する批判が巻き起こる。この発言の後もBBCは陸上競技団体「ウクライナのためのアスリート」と「グローバル・アスリート」は共同声明で、IOCが「ロシアの残忍な戦争とウクライナ侵攻を支持している」と批判。ラトヴィア、リトアニア、エストニア、ポーランドの各国も今月、ロシアとベラルーシ選手の参加に反対を表明。さらに、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの各オリンピック委員会がこれに続いた。五輪を開催するパリのアンヌ・イダルゴ市長までがこれまでの姿勢を転換、「ウクライナでの戦争が続く間は、(ロシアの)参加を望まない」と言い切っている。バッハ会長ならびにIOCの根拠は、「国を代表しない中立の立場を条件に認める」というもの。果たしてこのロジックに正当性はあるのだろうか。

1月31日付のこの欄で「ロシア選手の参加は是か非か、2024年パリ五輪」と題して取り上げた。オリンピックで「国を代表しない中立の立場」があるのだろうか。あるとすれば「中立とみなす」だけの話。誰が、もちろんIOCが。それ以外に中立などあり得ない。加えてバッハ氏は次のような主張もしている。「私たちはスポーツの使命にふさわしい解決策を見つけようとしている。対立を深めるのではなく、団結させるものだ」、「より平和に貢献しているのは誰なのか、歴史が証明する」と。ロシア選手を中立とみなして参加させることによって、ウクライナ戦争が平和的に解決するのだろうか。IOCはロシアを侵略者とはみていないのだろうか。なぜロシアは「ウクライナが参加するなら五輪をボイコットする」と言わないのだろうか。バッハ氏のスポーツと平和に対する“思い込み”は、世界中にさらに深刻な対立を撒き散らしているような気がする。(注:引用は<BBC日本語版>から)