シリコンバレーバンク(SVB)にシグネチャー・バンク、二つの銀行破綻は米財務省やF R B、金融機関などの波及防止対策が奏功。どうやら連鎖的な破綻拡大やシステミックリスクの封じ込めには成功したようだ。とはいえ、堅調な米国経済の内側に依然として脆弱な金融部門が潜んでいる現実も明らかになった。それ以上に気になるのは、今回の連鎖防止対策の柱が「すべての預金の保護」という点だ。預金を保護することによって連鎖倒産や破綻は防げる。それは評価するが、リスクを政府が肩代わりすることにともない別の問題が発生する。SVBの持ち株会社には銀行のほかにSVBキャピタタル(VC)、SVBセキュリティーズ(証券)もぶら下がっている。VCが投資家から集めた資金は、ベンチャー企業に投融資されるが、資金の大半はSVBの口座を経由していたはずだ。つまり預金ということだ。こうした資金も保護されるとなれば、投資リスクは存在しないことになる。

SVBの預金を全額保護することは、FRB(連邦準備銀行)とFDIC(連邦預金保険公社)など金融当局の協議によって決まった。FDIC はそのための原資として400億ドルを財務省から引き出している。SVBはFDICの傘下に入ったあと、預金は「つなぎ銀行」にすべて移管される。破綻処理対策としてはお決まりのやり方といっていいだろう。週末にこうした決定を行なった上で、週明けからSVBの窓口で預金の取り扱いが再開された。銀行は破綻したものの、一般の企業や預金者は通常通り現金の引き出しが可能になった。つまり外見上は破綻以前と何ら変わらはないのである。銀行破綻が嘘のような風景だ。これだと破綻の裏に潜んでいる深刻な問題は、一般預金者からは見えなくなる。投資家のリスクが消えたのと同様に、預金者リスクも消える。これも一種のモラルハザードだろう。米国は市場経済に立脚した世界に冠たるリスク受容社会である。その社会からリスクが消失したのである。

株式市場も債券市場も部分的な波乱はあったが、週明け以降ほぼ平穏に推移している。SVB破綻直後に懸念されていた「リーマンショックの再来」は、完全な杞憂に終わりそうだ。類似の金融機関も引き続き通常通りの営業を続けるだろう。だがそれが逆に金融機関の経営リスクを高める気がする。SVBはゼロ金利のもとで、デジタル化とESG投資化の波に乗って成長を続けてきた。これまで外部環境は順風だった。風向きが変わったのはコロナとウクライナ戦争だ。サプライチェーンが破壊され、燃料価格が高騰。世界中でインフレが猛威を振るっている中で、矢継ぎ早に政策金利の引き上げが実施された。ベンチャー企業は資金繰りを補うために、預金を取り崩しはじめる。それでもSVBは手を打たなかった。まるで倒産を待っていたかのようだ。これは明らかに経営者の判断ミス。預金保護は致し方ないとしても、これによって投資リスク、預金リスク、経営リスクも消失した。当面の危機はこれで凌げるとしても、金融市場に新しい不健全要因が持ち込まれたことになる。