Frances Schwartzkopff

  • 結局「グリーンウォッシングのリスク」を生んでいると結論
  • 運用者はESGへのインパクトよりもリポーティング重視

欧州で最も人気のあるESG(環境・社会・企業統治)ファンド分類が初めて、厳しい「アカデミックの試験」を受けた。結果は、あまり芳しいものではない。

  欧州連合(EU)の投資ルールで最も厳しいESG分類である「9条ファンド」市場は、常識的に見て「サステナブル」に程遠い資産を組み入れている。チューリヒ大学のマーク・チェズニー教授とエイドリアン・ポール・ランビロン氏が、論文でこう指摘した。両者は今のルールについて、結局のところ「グリーンウォッシングのリスク」を生んでいると結論付けている。 

  同教授らの調査によると、ファンドマネジャーが恩恵を与えているのは、「目標設定や方針の提示、ESGレーティング引き上げを通じ、サステナビリティー関連のプロフィルやイメージの改善に向け多大な努力をする」ためのリソースを持った大企業だという。

  チェズニー教授とランビロン氏が明らかにした点は、他にもある。9条ファンドの運用者はポートフォリオに組み入れた企業が、国連グローバル・コンパクト(UNGC)や経済協力開発機構(OECD)の多国籍企業ガイドラインなどが定める基本的人権原則への対応について、情報開示手続きほどは重視していないという点だ。

  EUのサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)で定義された9条ファンドの保有銘柄にも、国連とOECDの基準に「違反している企業が依然として多数存在する」と、両者は電子メールで質問に回答。9条ファンドが「石炭業界や兵器産業の企業」を組み込めることも分かったとしている。

  同教授らによると、結局のところ多くのポートフォリオマネジャーは、投資判断によるESGへのインパクトよりも、リポーティングについて気にしているという。

9条を巡る議論

  この調査結果は9条ファンドを巡る足元の議論に絡んでくる。資産運用業界では2022年、約1750億ユーロ(約25兆円)相当の9条ファンドが格下げされた。9条ファンドの条件として、100%の資産をサステナブル投資か、キャッシュやヘッジ対応に振り向ける必要があるとEUが表明したためだ。

  この結果、あえて「9条」のタグを獲得しようとする資産運用会社は、ますます減っている。アナリストは今後のさらなる格下げを見込む。一方、投資顧客にとっては、9条ファンドは不足している。22年には広範な市場で大量の資金が流出したにもかかわらず、9条ファンドは300億ドル近い資金を取り込んだ

  欧州の規制当局は、9条ファンドを巡る懸念の高まりを認識している。EUが「サステナブル投資」について適切な定義を示してこなかったことも、その一つだ。SFDRについて広く意見を募る「コンサルテーション」が計画されてきたほか、法律に根本的な修正を加えることさえ議論されている。

原題:Hottest Fund Class Hit by Greenwash Allegations: ESG Regulation(抜粋)