岸田総理の言動に再三ケチをつけてきたが、今回のウクライナ電撃訪問は高く評価したい。1月にゼレンスキー大統領から招待を受けて、関係者を交えて水面下で極秘に訪問の準備を進めて来たと思う。その動きは知る由もないが、WBC準決勝の最中にテレビにテロップが流れ、ウクライナに向かっていることが公にされた。インド訪問を終えたあと、プライベートジェットを使ってポーランドへ。そのあとはバイデン大統領がたどったおなじコースと電車。無事キーウに到着し、ゼレンスキー大統領と会談。ウクライナに殺傷能力のない装備品を提供すると約束した。戦争犯罪人であるプーチンによる無差別殺戮の現場、ブチャの視察も行なった。帰国途中にポーランドの首都ワルシャワに寄り、モラウィエツキ首相との首脳会談もこなした。5月に迫った広島G7サミットの議長国として、かろうじて国際世論の最先端に追いついた。

本当にタイムリーな電撃訪問だった。世界の大勢から何周も遅れている国会の実態を考慮すれば、侍ジャパンの優勝に引けを取らない“シナリオ”だったといっていいだろう。何がタムリーか、WBCに重なったからではない。習近平主席のロシア訪問とピッタリ重なったことである。習主席はウクライナとロシアをとりもつ公正・公平な仲介者であると、国際社会にアピールしたかったのだろう。戦争犯罪人として逮捕状が発布されているプーチンとの固い握手は、強権国家同士の血生臭い団結を想起させる。これに対して岸田総理は「無殺傷装備品の提供」を確約したのだ。時の総理を海外で護衛できない自衛隊のあり方も気になるが、武器輸出が禁止さえている日本ができるウクライナへの貢献は「無殺傷装備品」の提供だ。日本固有の特殊な事情を逆手にとって、血に飢えたプーチンと公平な仲介者然とした習主席の危険な関係に楔を打ち込んだ。平和国家・日本にできる最大の国際貢献だ。

ロイターによるとロシアのリャプコフ外務次官は昨日、ロシアが米国と事実上の紛争状態にあるとの見方を示し、「核兵器を利用した紛争が勃発する確率は過去数十年で最も高まっている」と述べている。直接的な原因を作ったのは誰かと言いたいが、岸田総理の電撃訪問はそんなロシアの認識に無言の圧力をかけた。それ以上に核封印に向けた広島サミットの環境整備にもなっている。とはいえ、習近平主席はメンツを気にする小心翼々たる人物だ。プーチンの人相も日に日に悪くなっている。ロシアのショイグ国防相はきのう、極東地域における防衛力を強化すると表明している。メンツを潰された中ロは徐々に、日本に対する締め付けを強化してくるだろう。親中国派が多い宏池会を率いる岸田総理、中国とロシアのイジメに対抗する“覚悟”はあるのだろうか。狷介固陋な国会をグシャリと鷲掴みにして捨てる意欲はあるのか。表面的なスタンドプレーに終わらないことを祈る。