岸田総理が年明け早々ぶち上げた「異次元」の少子化対策の検討が動きはじめている。先週、小倉將信担当大臣が「こども・子育て政策の強化について(試案)〜次元の異なる少子化対策の実現に向けて〜」と題したたたき台を発表、6月に予定されている最終報告に向け議論の活発化を促した。検討項目は児童手当の所得制限撤廃など「経済的支援」にはじまり「保育」、「働き方改革」など多岐にわたる。昨年の新生児は80万人を割り込んだ。このまま人口が減り続ければ、大袈裟に言えば、日本という国の存亡に関わる大問題である。首相ならずとも「異次元」の対策を求める気持ちはよくわかる。こうした状況の中で「異次元」の対策づくりがはじまった。だが、たたき台を見る限り、目新しい考え方はほとんどない。旧来の制度的な枠組みに新たに財源を積み増す対策がほとんど。正直いってこれでは少子化の逆転は可能なのか、何か違う気がした。

「異次元の対策を」と岸田首相の指示を受けて政府は、小倉担当大臣のもとに関係省庁のメンバーによって構成された「こども政策の強化に関する関係府省会議」を設置した。何かを決めるためにまず会議体を設置する、これが政府の常套手段だ。大臣を含めて19人のメンバーのうち17人までが官僚。学識経験者や子育て当事者などのヒヤリングを行った上で、冒頭の「試案」をまとめた。中間報告であり、小倉大臣が指摘するようにあくまでたたき台である。これから本格的な肉付けが始まるのだろう。とはいえ、6月にまとまる最終報告がこの試案から大きく外れることはないだろう。大枠はこの試案で決まりと見ていいのではないか。試案に伴う財源は一説によると年間8兆円程度になるとの見立てもある。総理を中心に財源をどうするか、6月に向けてそこが焦点になるだろう。

「試案」を読んで最初に感じたのは「官僚の作文」という印象だ。例えば男性の育休取得率の目標が設定されている。公務員80%、民間50%などの目標値が並んでいる。高い目標値を設定すれば出生者数が増えるとでもいうのだろうか。それが悪いと言いたいわけではない。ここにも官僚の思い込みがあるのではないか。官僚が思いつく机上の空論では現状は変わらない。まるでアベノマスクの二の舞だ。実態はもっと深刻だろう。例えば、「試案」に非正規雇用を廃止するといった対策を盛り込めば、賛否両論を含め大論争が巻き起こるだろう。これは関係府省会議の手には負えない。そういう議論をしないと少子化の逆転などとてもできないということだ。その上で決断するのは総理である。いずれにしても防衛力強化の比ではない決断が必要になる。岸田総理にその決断の覚悟はありや、そこが問われている気がする。