通勤や通学時間帯に発表された「北朝鮮から弾道ミサイルの可能性のあるものが発射された」という情報。

政府は13日朝、Jアラート=全国瞬時警報システムと、エムネット=緊急情報ネットワークシステムを通じて、発射されたミサイルのうち1つが北海道周辺に落下するとみられると発表、その後「落下の可能性がなくなった」と改めて発表しました。

情報発信をめぐる対応は適切だったのでしょうか?

“北海道周辺に落下”との発表も その後“訂正”

13日朝からの動きです。

▽午前7時26分、防衛省は北朝鮮から弾道ミサイルの可能性のあるものが発射されたと発表しました。

▽午前7時55分、北海道周辺を対象にJアラート=全国瞬時警報システムで情報を発信しました。

▽午前7時56分、政府はエムネット=緊急情報ネットワークシステムで情報を発信し「先ほど発射されたミサイルが午前8時ごろ、北海道周辺に落下するものとみられます。北海道においては直ちに建物の中や地下に避難して下さい」と伝えました。

▽午前8時16分、政府はエムネットで新たに情報を発信し「本日7時55分にJアラート、7時56分にエムネットにて北朝鮮から発射されたミサイルのうち1つが北海道周辺に落下するものとみられるとして発表しました。その後、情報を確認したところ当該ミサイルについては北海道及び、その周辺への落下の可能性がなくなったことが確認されましたので訂正します」と改めて発表しました。

▽午前8時45分には防衛省も「我が国領域に落下する可能性があるものとして探知し北海道に落下する可能性のあったミサイルについては、我が国領域への落下の可能性は無くなったことが確認されました。詳細は分析中です」と発表しました。

日本の領土・領海への落下予測は初

北朝鮮による弾道ミサイルの発射をめぐり、政府がJアラートとエムネットで情報を発信したのは今回で7回目ですが、日本の領土や領海への落下予測が発信されたのは今回が初めてです。

過去の6回は、いずれも、発射されたミサイルが日本の上空を通過するとして、発射の時間や通過地点、それに落下場所などに関する情報が出されていますが、日本の領土や領海に落下するおそれがあるという情報は含まれていませんでした。

市民生活に影響

北海道周辺を対象にJアラートで避難を呼びかける情報が発信されたことで、市民生活に影響が広がりました。

札幌市 地下街に避難する人

札幌市中央区にある地下街では、通勤客などが一時避難し、ヘルメットをかぶって避難する人の姿も見られました。

JR北海道や札幌市営地下鉄、それに札幌市内の路面電車が午前8時前から全線で運転を見合わせました。その後、ミサイルの落下の可能性がなくなったと改めて発表され、いずれも運転を再開しましたが、運転見合わせの影響で午前11時現在でJRのあわせて28本の列車が運休や部分運休となったほか、在来線で最大40分程度の遅れが出ました。

このほか、道内のすべての高速道路が午前8時すぎから、およそ1時間にわたって通行止めとなりました。

授業開始時間を繰り下げる対応も

Jアラートの情報発信は登校の時間帯とも重なり、北海道教育委員会によりますと、午後3時現在、道内の公立の小中学校と高校、それに特別支援学校など、あわせて101校で授業の開始時間を繰り下げる対応をとったということです。

Jアラート なぜ発出?

今回のJアラート。発出の経緯について松野官房長官は記者会見で説明しました。

Jアラート発出の経緯は

松野官房長官は午前の記者会見で「探知の直後、北海道周辺に落下する可能性のあるものはレーダーから消失していたが、限られた探知の情報の中で、国民の安全を最優先する観点からJアラートを発出した。その後、当該ミサイルについて、わが国への飛来が確認されず、わが国領域への落下の可能性がなくなったことが確認された」と述べました。

また「Jアラート=全国瞬時警報システムの情報を訂正したということではない。Jアラートを発出したが、状況を分析した結果、わが国領土に着弾する可能性がないということで改めて情報提供をしたところだ」と述べました。

その上で「結果的に、わが国領域への落下の可能性はなくなったことが確認されたが、Jアラートの役割にかんがみれば、発出判断そのものは適切であったと考えている」と述べました。

一方で弾道ミサイルの発射をめぐって、政府は、発射から30分以上たった午前7時55分に、北海道周辺を対象にJアラート=全国瞬時警報システムで情報を発信しました。

午後の記者会見で、Jアラートの発信までに30分以上かかった経緯について「刻々と状況が変化する中で、可能なかぎり速やかに国民に対する情報提供を行ったところだ」と強調。そして、ミサイルは探知後にレーダーから消失したものの、その時点で得られていた情報で、システム上、北海道周辺に落下する航跡を示していたことから、国民の安全を最優先してJアラートの発出を判断したと重ねて説明しました。

さらに、レーダーによる探知能力について「わが国周辺での軍事活動が活発化する中、すきのない情報収集体制を構築することが不可欠だ。弾道ミサイルなどの探知・追尾能力や迎撃能力を抜本的に強化する」と述べました。

防衛省幹部 高い高度でレーダーから消失か

元海将 香田洋二さん 今後の課題は?【Q&A】

Jアラートなどをめぐる一連の対応について、海上自衛隊で司令官を務めた元海将の香田洋二さんに話を聞きました。

元海将 香田洋二さん

Q.「北海道周辺に落下する可能性のあるものはレーダーから消失していた」とはどういうことか?

A.レーダーは電波を使った兵器ですので、携帯電話やテレビ放送などの“雑音”を必ず拾ってしまいます。そのため追尾をしていても、途中で“雑音”だったと判明することも否定できません。当然、この精度を上げるべきですが、こうした間違った探知のリスクというのは常にありますので、こうした事態に国がどう対応すべきか考える必要があると思います。

Q.今回、Jアラートをめぐって混乱が見られたとの指摘があるが、今後どういった課題があるか?

A.危機管理というのは国民の生命財産をしっかり守るためのものです。空振りでも仕方がないと考えるのはよくないですが、ある程度危険だと判断をしたならば、間髪を入れず発出することが重要です。同時に「おおかみ少年」になってしまわないよう、防衛省や自衛隊には、追尾の精度をできるだけ上げていって、空振りをしない、もしくは最小限にとどめることが求められます。政府はしっかりと国民にJアラートの意義を説明して理解を求めるべきだと考えます。

岸田首相も“判断適切”と強調

岸田首相

大阪市で開かれた万博会場の起工式に出席していた岸田総理大臣は「国民の安全を最優先する観点から発出し、その後、ミサイルがわが国領域に落下する可能性がなくなったことが確認されたので改めて情報提供を行った。Jアラートの役割を考えれば今回の判断は適切だったと考えている」と強調しました。

与野党から“検証を”

今回の対応について与野党から「しっかりと検証が必要」という声が相次いでいます。

自民 小野寺 元防衛相

自民党の安全保障調査会長を務める小野寺 元防衛大臣は党の会合で「今回のミサイルは状況を正確に把握する必要がある。もしレーダーから消失していなければ、わが国領土に本当に落ちるような弾道の軌跡があったかどうかも含めてしっかり検証してほしい」と述べました。

立民 安住 国対委員長

立憲民主党の安住国会対策委員長は、党の会合で、Jアラートを発出した政府の対応について「念には念を押すのは大事なことかもしれないが、確実性がなくなると、おおかみ少年となったり信頼性をなくしたりするのは世の常ではないか。ネット時代の発信は人々の日々の暮らしに大きな影響を与えるので、Jアラートの運用や正確性を野党としてしっかり検証していきたい」と述べました。

これまでも“発信の課題”

Jアラートやエムネットは、これまでに発信のあり方などをめぐって課題が出ています。

このうち前回の去年11月3日には、北朝鮮が発射したミサイルが東北地方などの上空を通過したとみられるなどと発信しましたが、実際には日本列島を越えなかったとしてその後、訂正しています。

また、避難の呼びかけが上空を通過すると予想された時刻よりあとになるなど、課題が浮き彫りとなっていました。

◆Jアラートとは

Jアラート=全国瞬時警報システムは、防災や国民保護に関する情報を、人工衛星を通じて瞬時に自治体に送るシステムで、弾道ミサイルが▽日本の領土や領海に落下する可能性がある場合や▽領土や領海を通過する可能性がある場合に使用されます。

総務省消防庁のJアラートシステムを使い、主に携帯電話会社と市区町村の受信機に情報が通知されます。通知を受けて携帯電話会社は、対象エリアの携帯電話やスマートフォンにエリアメールや緊急速報メールを流すほか、市区町村では防災行政無線などが自動的に起動し、屋外のスピーカーなどから特別なサイレン音とともに、避難を呼びかけるメッセージが放送されます。

弾道ミサイルは発射から10分もしないうちに到達する可能性があることから、メッセージが流れた場合、政府は▽近くの建物の中か地下に避難することや▽物陰に身を隠すか、地面に伏せて頭を守ること▽窓から離れるか、窓のない部屋に移動するよう呼びかけています。

◆エムネットとは

エムネット=緊急情報ネットワークシステムは、国民保護法に基づく緊急事態が起きた際に、国が、地方自治体や報道機関などに、メールで連絡するために整備されたものです。緊急情報は、総理大臣官邸にある危機管理センターから送られ、受信先では、警報音がなって、情報が伝えられたことを知らせる仕組みになっています。エムネットは、現在、すべての都道府県と市町村に導入されています。