米国経済は金融破綻や持続的なインフレ、FRBによる矢継ぎ早の利上げを物ともせず堅調を維持している。どうしてだろう?ニュースを読みながらいつもそんなことを考えている。要因はいろいろあるだろう。一つではない。きのう2023年第1・四半期の決算を発表した米金融大手バンク・オブ・アメリカ(BofA)のアラステア・ボースウィック最高財務責任者(CFO)は、次のような見解を表明した。「市場や銀行部門の変動が激しい厳しい経済環境にもかかわらず、業績は好調だった」(ロイター)。その理由として挙げたのが雇用と賃金だ。「景気後退が迫っているという懸念はあるものの、雇用や賃金が堅調に推移していることから、消費支出は依然として堅調だ」と。要するに雇用と賃金の好循環が同社の業績を押し上げたというのだ。

翻ってデフレ体質から脱出できない日本。昨日、日銀の植田新総裁は衆院財務金融委員会で次のような発言をした。物価や賃金上昇で「良い芽が少しずつ出始めていると思う」(ロイター)。女性や高齢者の労働参加が進み、生産年齢人口が減少する中でも雇用の大幅な増加が実現するなど、「経済の成長力の強化に寄与してきた」(同)と。要するに黒田前総裁の路線を評価しているのだ。アベノミクスで新規求人倍率が1を上回り求人が増えたことは事実だ。にもかかわらず賃金は上昇してこなかった。労働市場の需給が逼迫しているのに、米国では賃金が上がり日本ではどうして賃金が上がらなかったのか。デフレ体質のせいとされてきたが、本当にそうなのだろうか。企業は工場を海外に移転させ、国内では非正規雇用者を大量に採用して合理化に勤しんできた。

雇用は海外に流出し、非正規雇用の拡大で労働コストは大幅に削減された。労働市場は空洞化し、その上で労働者の手取りは削減された。結果、企業業績は大幅に回復した。にもかかわらず、利益の分配は内部留保優先で、賃金は抑制され続けてきた。デフレだからこうなったのか、労働コストを削減した結果デフレ体質が常態化したのか?個人的には後者ではないかという気がしている。米国では労働市場が逼迫すれば賃金は上がる。これが市場原理だ。これに対して日本は非正規雇用の拡大で市場原理を無効化した。YCCはある意味その象徴だ。企業業績を支える最終的な需要は消費だ。米国では雇用と賃金がスパイラルに上昇して消費を支えている。これに対して日本は、空洞化とコスト削減で雇用と賃金の連動を断ち切ってきた。植田総裁が指摘する「良い芽」は政府・日銀が作り出したものではない。世界的な物価上昇がつくり出したものだ。さてこの先、“どうする・日本”。