ニュースには時々言語明瞭なれど意味不明な表現がある。ドイツ外相のベアボック氏がドイツ議会で行った中国訪問に関する報告もそのひとつ。ロイターが今朝未明に配信した「システミックなライバル」がそれ。タイトルは「独外相、中国『システミックなライバル』、訪中で衝撃」となっている。ロイターによると同外相は議会報告の中で次のように述べた。「中国は貿易相手国や競争相手というよりも、むしろ『システミックなライバル』になりつつある」と。その上で「衝撃を超えるもの」を受けたとも述べている。後段が何を意味するか、具体的な説明はなかったとロイターは書いている。「衝撃を超えるもの」だけではない。システミックなライバルが何を意味するかもはっきりは書いてない。中国幹部との会談では中国を批判することばがポンポン飛び出した。その外相が議会報告では極めて歯切れが悪い。なぜ?

ベアボック外相の訪中は15日。NHKによると同外相は秦剛外相との会談で、「一方的で暴力的な現状変更は受け入れがたいと述べ、中国が台湾に軍事的圧力を強めていることに懸念を示しました。フランスのマクロン大統領が、ヨーロッパは台湾をめぐる米中対立から距離を置くべきだという考えを示し波紋が広がる中、台湾情勢を重視する姿勢を示した」(15日付)。さらに「中国で人権が抑え込まれていることを懸念している」(同)とも述べている。欧米が懸念しているロシアへの武器供与に関しても率直に反対の意思を伝えている。首脳級の会談といえば、持って回った表現で相手を暗に批判するというのが一般的。これに対してベアボック氏はストレートに、言いたいことをそのまま口にするタイプ。さすが論争に長けた緑の党の共同代表だ。それだけに意味不明な発言が余計気になる。

中国はドイツにとって最大の貿易相手国である。ベアボック氏の少し前にフランスのマクロン大統領が公式訪問している。台湾問題について同大統領は、「欧州は米中対立から距離を置くべきだ」と中国寄りの発言をして波紋を広げた。それを意識したのだろうか、ベアボック氏の議会報告はかなり曖昧だ。「システミックなライバル」が何を意味するのか、他のメディアがどう扱っているかググってみた。だが、この件に関する記事そのものが見当たらない。仕方ないから想像を逞しくするしかない。システミックに組織され動くものといえば軍隊がまず頭に浮かぶ。ひょっとするとベアボック氏は「中国が軍事的ライバルになりつつある」と言いたかったのではないか。だとすればこの発言は重大だ。マクロン大統領が主張する「距離を置く」戦略とは真逆だ。多様化する世界。根拠のない想像に過ぎないとはいえ、EUも大変だ。