米国の中堅銀行であるファースト・リパブリック・バンク(F R B)が破綻した。ロイターによると米カリフォルニア州の金融当局は1日F R Bを公的管理下に置き、資産をJPモルガン・チェース銀行に売却すると発表した。これによってシリコンバレー銀(SVB)、シグネチャー銀行の破綻に端を発した米国の金融不安は収束に向かうとの安心感が広がっている。バイデン大統領も「これら措置は銀行システムの安全性と健全性を確実にする」と当局の対応を賞賛している。市場関係者の間にも「(J Pモルガンが買収したことで)市場に一定の安心感を与えるだろう。無秩序な破綻が最悪のシナリオであったが、それは避けられた」(三井住友銀行)と評価する声が多い。とはいえ、大統領をはじめ当局者が金融システムの安全性と健全性を強調すればするほど、「まだどこかに懸念材料があるのでは・・・」と疑いたくなるのも世の常。疑っているのは私のようなへそ曲りだけはないようだ。

国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は1日、カリフォルニア州で開かれた国際会議に出席。ロイターによると発言の冒頭から銀行危機に言及、「低金利から高金利への急激な移行が、特定の銀行の弱点を白日の下にさらした」と指摘した。そのうえで「これで終わりではないかも知れない」と意味深なことを言っている。素人ではない。金融専門家の発言である。F R Bの破綻処理が平穏に終了しても、世界中に潜伏している金融不安は終わらない。そう警告しているようでもある。資産運用会社PGIMのデービッド・ハントCEOは、米シンクタンク主催の国際会議で次のような発言をした。「このような朝にはほっとしたいものだが、その局面は過ぎ去ったと思う」と。そして、「実際のところドラマは始まったばかりかもしれない」。想像するにこれが世界の金融市場を覆っている“空気感”かもしれない。そんな気がする。

1日の米株式市場ではF R Bの破綻処理を受けて、中小金融機関の株価が軒並み急落した。これとは逆にJ Pモルガンなど大手金融機関の株価は上昇している。日本流に言えばギガバンクの株価が上昇し、地銀以下の中小金融機関が下落したということだ。大手金融機関の経営が全て健全かどうかはわからない。金融不安が起こるたびに「大きくて潰せない」銀行が増えていることだけは確かだ。これは市場経済にとって健全なことなのだろうか。一連の金融破綻はF R Bによる急激で継続的な利上げが引き金になっている。インフレ対策として当然のことだが、それが金融システムに大きな負荷をかけていることもいえる。パウエルF R B議長は景気のソフトランディング、インフレ抑制、雇用の確保といった経済の基礎的諸条件に配慮しながら、金融市場の安定にも目配りしなければならないようだ。今日からはじまる公開市場委員会(F O M C)が注目される所以だ。