日経平均株価がきのう、33年ぶりに3万2000円の大台を突破した。先週発表された米雇用統計(5月)が堅調だったことを受け米国株が急騰したこと、堅調な景気の持続を受けて米金利が上昇するとの見方が強まり円安が加速したこと、今春闘で3.7%程度の賃上げが実現し日本経済の先行きに期待感が広がったことなど、もっぱら外的要因が海外投資家の日本株買いを刺激したようだ。岸田政権が主導する新しい資本主義は株高を支援しているのか、気になるところだ。自民党の麻生副総裁は「(株価が)このような上昇基調を示しているのは日本だけ」(ロイター)と語ったという。これだけでは何を言いたいのかよくわからない。長らく財務大臣を務めていた人である。言外に「日本政府の経済運営のよろしきを得た結果」と言いたげな雰囲気を感じる。経済界を代表して十倉経団連会長は「素直に喜びたい気持ちはあるものの、『喜んでばかりはいられない』」とこちらは正直だ。

長らく低迷していた日本株に世界の投資家が目を向けはじめたとすれば喜ばしいことだ。広島サミットにウクライナのゼレンスキー大統領が出席したことも、日本の存在感を世界に示すきっかけになったような気がする。人への投資を掲げる岸田政権が、半導体の工場新設、異次元の少子化対策など次々とモノやヒトへの投資をぶち上げていることも、これまでになく思い切った政策に取り組んでいる印象をあたえる。ぶち上げることのPR効果もあるのだろう。世界から取り残され気味だった日本経済の先行きに、なんとなく明るさが戻ってきたような気がする。これに植田日銀総裁による異次元緩和の継続だ。世界中の機関投資家が日本株に目を向け始めたのかもしれない。ポスト・コロナで需要が回復傾向を強めていることも、日本経済にとっては支援材料になっている。不安に覆われていた日本経済の先行きに、安心感が出始めたとすればこれにまさる喜びはない。

だが、株高をささえる日本経済は本当に“強い”のだろうか?その点がおおいに気になる。ヒトやモノ、半導体や教育など戦略投資をベースにした新しい資本主義という考え方も、元をたどれば米財務長官であるイエレン氏が提唱するモダン・サプライサイド・エコノミクス(MSSE)の二番煎じと言えなくもない。賃上げも経営者自ら実践したというよりは、世界的な物価高に押されて実現したに過ぎない。言ってみればすべてが受け身だ。来年も大幅な賃上げが続くという保証はない。“弱さ”の象徴であるデフレ脱却を目的とした低金利は、この先もしばらくは続くだろう。足元で物価は徐々にあがっている。にもかかわらず政府にも日銀にも、金融政策を修正しようという意欲は感じられない。株高は経済の“強さ”を映す指標のはずだ。だが肝心の日本経済は相変わらず“弱さ”を引きずっている。それを証明するかのように時々刻々と円安がすすみ、消費者物価と政策金利は乖離する一方だ。