ウックライナ南部、ドニエプロ川にかかるカホフカ水力発電所のダムが先週何者かによって破壊された。周辺は水没し、住民への水の供給が危ぶまれている。ロシアの犯行説が支配的になりつつある。直感だが、個人的にもそう思っている。だが、いまのところ決定的な証拠はない。昨年、ロシアと欧州を結ぶガズパイプライン・ノルドストリームが爆破された。真犯人を巡ってバイデン大統領説、ウクライナの特殊部隊説などがメディアで流布されている。だが、いまだに決定的な証拠は見つかっていない。トランプ前大統領が再び起訴された。37の罪で今度はフロリダ州の連邦裁判所で裁かれる。トランプ氏は当然のごとく無実を主張している。それ以上に不思議なのは起訴されるたびに支持率が上がることだ。メディアを通して真実を知るしかない一般庶民には、何が起こっているのか、何もわからない。FOXテレビを解雇された米国の有名なコメンテーター・タッカー・カールソン曰く、「トートロジーが支配している」。

トートロジー(tautology)。ググってみた。 語源はギリシャ語で「同じ」を意味する。ある事柄を述べるのに、同義語または類語または同語を反復させる修辞技法のこと。 同義語反復、類語反復、同語反復等と訳される。なんとなく思い当たることがある。テレビメディアが特にそうだ。事例は山ほどある。例えば「イラクは大量破壊兵器を隠している」。イラク戦争を始めるにあたって米国のブッシュ政権が多用したロジックだ。米国は同時多発テロを受けて報復の相手を探していた。そんな中でメディアが多用したのがこの表現だ。もちろん政権の意向を受けていたのだろう。いつのまにか一般視聴者はイラクに核兵器があると信じ込んでいた。トランプ前大統領は「選挙が盗まれた」と再三主張した。これに対して主要メディアは、「証拠も根拠もない主張」と判で押したように形容した。主要メディアのテレビにも新聞にも「トートロジー」が溢れた。だが、真実は誰にもわからなかった。

別のことばで言えばメディアは同質、同類、同根。まるで伝言ゲームのように同じ言葉を伝え続けている。ウクライナ戦争しかり。ウクライナの反撃が始まったが、戦場で何が起こっているのか誰にもわからない。ロシアや中国、北朝鮮は権力が好き勝手に情報操作を行なっている。操作とは言わないが、西側のやっていることも同根だ。強権による言論弾圧とは異なるが、“真実”を見えなくしている点では同類だ。西側の主要メディアは「トートロジー」によって“真実”を覆い隠している。困ったことに情報源も同じだ。戦況は米英両国の軍部がリークする情報がベースになっている。これにシンクタンクの分析が加味される。日本のメディアがさらに悲惨なのは、そうした情報に依存した米英のメディアの報道を焼き写していることだ。血眼になって主要メディアの報道に神経を集中している。かくして西側の主要メディアは「トートロジー」のオンパレード。多様性はどこにもない。