岸田政権の1丁目1番地の看板政策である少子化対策が昨日閣議決定された。夕方に記者会見をした岸田総理は、「2030年までが少子化の傾向を反転させるラストチャンスだ」と語気を強めた。解散も意識しているのだろう。大上段に振りかぶった総理の記者会見をテレビみながら、アベノマスクが頭をよぎった。一部の政治家とエリート官僚が知恵を絞った少子化対策。まるでアベノマスクの二番煎じだ。結末を大胆に予測すれば、「若い世代の生活は豊かになるが、出生率は増えないだろう」。アベノマスクは需給改善に役立ったと当時、政府・与党は評価していた。そうした面を否定はしないが、ほとんど誰も使わなかった。莫大な予算を使った割に政策効果はゼロ。言ってみれば庶民生活の実態を知らない政治家とエリート官僚が生み出した“幻の対策”に過ぎなかった。少子化対策もこれに似ている。莫大なカネを注ぎ込む割に効果が見えない。そうした政策しか打ち出せない政権とエリート官僚。政府の劣化が加速する。

何が足りないのか。出生率の改善には社会をあげた取り組みが必要だということだ。さまざまな対策の中に「こども誰でも通園制度」が、最終局面になって取ってつけたように追加された。今回の対策の中で唯一社会性を感じる制度だ。これ以外は出産一時金の引き上げ、出産費用の保険適用、児童手当の拡充、働き方改革など、子育て世代に対する金銭的な支援のオンパレエードだ。加えて財源については国民に負担を求めないと強調する。国会会期末の解散・総選挙をすでに決意しているのかもしれない。防衛費の増強に関連した増税を含め、財源論の先送りをあえて強調している。まるでポピュリズムだ。見方によっては明らかな選挙対策と言えなくもない。少子化対策で最も必要とされるものは、社会をあげた子育て世代に対する支援だ。総理は「日本の社会は子育てに必ずしも温かくないと言われる。社会の意識を改革し、社会全体で子育て世帯を応援する社会を皆さんとともにつくっていきたい」と会見で述べている。

その通りだろう。だがそのイメージについては何も語らない。何も考えていないから語れないのだろう、ついつい邪推が先走る。大上段に振りかぶるつもりはない。たとえば、子育て世代をささええる最強軍団は祖父母だろう。児童手当拡充の代わりに祖父母に子育て支援手当を支給する。祖父母のいない世代向けには「ばっちゃん・じっちゃん子育て支援組合」を創設する。ここで働くのはもちろん高齢者や祖父母たちだ。支援金を手にした祖父母たちは孫たちに気前よくお小遣いをあげる。かくして3世代にわたってファミリーの絆が深まる。おそらく岸田総理が強調する「社会全体で子育て世帯を応援する社会」とはこんなイメージではないか。カネを配って目標を設定するだけでは出生率は増えない。「将来に明るい希望をもてる社会をつくらない限り、少子化トレンドを反転することはかなわない」(岸田総理)。これも納得できる。だが現実は、特定少数のエリートたちが、既定の制度をいじくり回しているだけだ。これでは少子化トレンドは反転しない。政治も日本も変わらない。