きのう発表された経済統計をみて、世界経済のエンジン役である中国経済の先行きが急に心配になった。中国国家統計局が15日発表した5月の生産・消費指標によると、鉱工業生産は前年比3.5%の増加。伸び率は市場予想をやや下回り、2月以来の低水準となった。ロイターがまとめた市場予想は3.6%増、4月は5.6%増だった。小売売上高は前年比12.7%増で、4月の18.4%増から鈍化。市場予想の13.6%も下回った。ロイターによると、上海保銀投資管理(ピンポイント・アセット・マネジメント)のチーフエコノミスト、張智威氏は「全ての指標が一貫して経済の勢いが弱まっていることを示している」と指摘する。弱いといってもいずれもプラスだ。どうして「経済の勢いが弱まっている」といえるのか。要はゼロコロナの廃止で、もっと強くなっていいはずの中国経済が、「そうなっていない」というのだ。

最近の統計をみると製造業、投融資、貿易、住宅販売、個人消費などあらゆるデータが予想に反して伸び悩んでいる。若者の失業率は過去最高の20.8%だ。朝鮮日報(日本語版)によると、7日から9日まで3日間行われた今年の中国の大学入試(高考=ガオカオ)では、過去最多の1291万人が受験したという。中国は聞きしに勝る受験大国である。その様子を放映したテレビの映像をみると家族ぐるみ、地域ぐるみの大応援団が繰り出し、遅刻しそうな受験生がいれば警察がパトカーで受験会場まで送り届けている。日本にも昔、ベビーブーマー達の壮絶なる受験戦争があった。でも、いまの中国の高考ほどではなかった気がする。受験生は生まれてこの方、高考が終了するまで死に物狂いで受験勉強するそうだ。14億人がひしめく中国、想像を絶する競争社会なのだろう。激しい受験戦争を勝ち抜き、無事卒業して今度は就職活動期を迎える。そこに立ちはだかるのが失業率だ。統計上の失業率は5%程度に過ぎないが、若者に限るとその率は20%台にハネ上がる。

経済に喝を入れる必要がある。強権国家の中国だ。得意の財政出動がある。だが過去に行った計画性のない不動産に対する投融資の付けが祟って、地方政府を中心に不良債権が天文学的な規模で累積している。財政出動の余地はほとんどない。そんな中で経済対策は必然的に金融に頼らざるを得なくなる。世界中で物価が高騰する中、中国は政策金利の引き下げに動く。金利を下げれば人民元は安くなる。必要以上の元安は資金の海外流出を招きかねない。中国の国債利回りが低下する中で、米国の長期金利は高止まりしている。それが長期化しそうな雰囲気だ。こなると中国は景気低迷→金利引き下げ→元安→資金の海外流出→景気低迷加速という悪循環に陥ってしまう。バブル崩壊後に起きた日本の「失われた30年」にますます似てくる。これに輪をかけるのがインドの台頭だ。人口はすでにインドに抜かれた。高考を勝ち抜いても“就職氷河期”がまっている。若者はどこにいくのだろうか?他人事とはいえ心配になる。