岸田首相は先週、国会の閉幕に合わせて行なった記者会見(21日夜)で「令和版デジタル行財政改革」に取り組む意向を明らかにした。その様子をニュースで耳にして気になっていた。官邸のホームページで改めて内容を確認してみた。記者会見では今国会の成果などを強調した上で、今後のテーマとしていくつかの課題を挙げている。そのひとつが「令和版デジタル行財政改革」。ちなみにトップに上げたのは「国内投資の活性化に向けたさらなる取り組み」。新しい資本主義に注力している内閣だけに、人への投資をはじめ国内投資を最優先に上げるのはよくわかる。その次がデジタル行政改革だ。政策の優先順位は高い。岸田総理の説明を聞いてみよう。「デジタルの力をフルに活用した令和版デジタル行財政改革です」と説明する。「全体の公務員数を増やさずに、国民や事業者から見て、便利で使いやすい、効率的な行政に組み直すための改革が不可欠となっています」。ひょっとすると、これが異次元の少子化対策の財源を賄う「徹底的な予算の見直し」に通じるのかもしれない。ふとそんなことを考えた。

岸田総理は以下のように話を進める。「少子高齢化、脱炭素、安保情勢の変化など、新たな時代環境に適応していくために、政府の事業規模は、世界のどの国においても拡大しています。全体の公務員数を増やさずに、国民や事業者から見て、便利で使いやすい、効率的な行政に組み直すための改革が不可欠となっています。今、世界的に求められているのは、筋肉質の組織を持ちながら、広範な機能を担う、小さくて大きな政府です」。時代認識としては間違っていないと思う。防衛費の増強、異次元の少子化対策、いずれも莫大な財源を必要とする。それ賄うために様々な工夫が求められている。だが、総理は具体的な財源論を先送りしたまま、明確な説明を避けている。その裏で「増税論が透けて見える」と有権者の疑心暗鬼を生み出している。具体策は年末の予算編成までに明らかにすると説明してきた。ここでも大きく後手を踏んでいる。G7サミットで持ち直した支持率の急落は、マイナンバーカードの不始末だけではない。優柔不断な総理の政策対応にも一因があるだろう。

改めて21日の記者会見の発言を読み直してみた。デジタル化の推進は行財政改革とほぼ同義語である。とすればこれは財源論ではないか。にもかかわらず総理はこの件で財源論とはひと言も口にしていない。デジタル行革と財源論がまったく結びついていないのだ。「令和版デジタル行財政改革」は、次の時代に向けた財源の捻出に大きく関わってくる課題である。デジタル化の推進はいくつものメリットがあるが、一例をあげれば組織のフラット化が可能になる。とすれば市町村の上に都道府県を置き、その上に国が君臨するいまの行政システムは、効率化という点では極めて無駄が多い。改善の余地がふんだんにある。デジタル行革を推進するだけでいくらでも財源を生み出す可能性があるのだ。日本の政府予算23年度予算はその規模が114兆円を超えている。異次元の少子化対策に必要な財源は3.5兆円に過ぎない。デジタル行革を本気で推進すれば防衛費も少子化対策の財源も、増税なしで生み出せるのではないか・・・。