ロシアの民間軍事会社・ワグネル、創設者でプーチンの側近とされるエフゲニー・プリゴジンの反乱は、終わってみれば“大義も正義もない泥仕合”だった。ベラルーシのルカシェンコ大統領が当局者に説明した内容をメディアが報道している。それによると同大統領はプリゴジンに対し、モスクワへの進軍をやめるよう電話で数時間かけ説得したという。もちろん事前にプーチンの了解をとっている。ポイントはこの説得に「数時間かけた」という点だろう。プリゴジンが簡単に納得しなかった様子が窺える。プリゴジンは撤収後に「プーチン政権を転覆する意図はなかった」と弁解しているが、それも単純には納得し難い。むしろ、24日にロシア南部ロストフ州の州都ロストフナドヌーに到着した時、「(プリゴジンは)半狂乱の状態だった」(ルカシェンコ)と明らかにしている。ショイグやゲラシモフに対する“怒り”が、反乱の原動力だろう。

反乱軍はロシア軍の抵抗をうけることなくモスクワまで200キロの地点まで進軍する。この間、ロシア軍の戦闘機をミサイルで撃ち落としたというから、反乱軍は戦力としてもかなりの力を備えていたようだ。真実は明らかではないが、大統領を乗せる専用機が飛び立ったという情報もある。ひょっとするとプーチンは逃亡を図ったのかもしれない。ロイターは「プーチンがプリゴジンが電話に応じないことにいら立ち、ルカシェンコ大統領に助けを求めた」とこの間の経緯を説明する。一方、プリゴジンは「ロシア軍指導部の腐敗と無能さに激怒し、同氏が主張する自身の部下が攻撃された事件の復讐をしたい」と説明。「われわれは正義を望む。彼らはわれわれの首を絞めようとしている。われわれはモスクワに行く」と、通常の会話よりもはるかに多い汚い罵り言葉を発していたという。

こうした中でルカシェンコは、「モスクワに向かう道半ばで、虫けらのようにつぶされるだけだ」と説得に努めた。この説得に数時間かかったようだ。これが長いか短いか、この間、プリゴジンのこころにどのような変化が起こったのか、誰にもわからない。ルカシェンコの仲介でプーチンは、プリゴジンの刑事訴追を免除し、ワグネルの戦闘員をロシア軍に参加させるか、家族の元に返すか、ベラルーシに向かわせることを約束した。ここに反乱終結の合意が成り立った。ルカシェンコの説明をそのまま信じるわけではないが、ここから推測できる反乱の真相は軍内部におけるプリゴジンの私利私欲と、側近といえども虫ケラとしてしかみないプーチンの傲慢な意識だろう。虫ケラがいうことを聞かなくなれば「いら立ち」、他の側近に助けをもとめる。怒りや怨念に主導された反乱と独裁者の哀れな他人頼み。世界は大義も正義もない泥仕合いに付き合わされたことになる。