先週、米国の最高裁判所が相次いで衝撃的な判決を言い渡した。その一つがバイデン政権の看板政策である学生ローンの返済免除。この政策に対して最高裁は憲法違反との判決を下した。米国の学費は私立大学の平均で年間3万9400ドル(時事ドットコム、円換算で約570万円)といわれ、学生のみならず一般家庭の負担は極めて重い。これを免除するというのがバイデン大統領の目玉政策だ。来年の大統領選に向けたアピールでもある。いかにも民主党らしいばら撒き政策だ。これに対して共和党は「大学教育を受ける一部の人のみを対象とする優遇政策で、行政権の逸脱である」(時事ドットコム)と批判。共和党色の強いアーカンソー州、アイオワ州など6州が合同で提訴していた。ロバーツ最高裁長官は今回の判決について、「立法府が持つ権力を掌握しようとする行為」だとして、憲法に違反するとの判断を下した。

判決は共和党系の6人が賛成、民主党系の3人が反対。保守化する最高裁の実態を写した判決となった。最高裁はこの判決の前日(29日)、黒人やヒスパニックなど人種的マイノリティーを優遇する大学入試選抜制度、「アファーマティブ・アクション(積極的な差別是正措置)」に対しても憲法違反の判決をくだしている。在任中3人の保守系判事を任命したトランプ前大統領は今回の判決について、「誰もが待ち望んでいたもの」(ロイター)と絶賛した。民主党、共和党の対立が深まる中で最高裁は少数派を優遇し人種差別に反対する伝統的考え方らから、個人の価値をベースにする考え方に方向転換を図ろうとしているかのようだ。ロバーツ最高裁長官は「(人間は)人種ではなく、個人の経験に基づいて扱われるべきだ。多くの大学では『個人が乗り越えた苦難や培った能力・識見ではなく、肌の色が基準になるといった誤った結論を下してきた』」(同)と主張する。バイデン大統領は即座に、「これは普通の裁判所ではない」と強く批判した。

まるで米国そのものの分裂を目の当たりにするようだ。問題はそれだけではない。学費ローンの免除申請は2600万人に達しているといわれる。免除プログラムの規模は、期間でいうと30年、予算規模は4000億ドルだ。円に換算すれば60兆円弱となる。財政面から見れば財政の健全化につながるが、学生(家庭)からみれば60兆円の減税効果がなくなることを意味する。バイデン政権になって米国は過剰ともいうべきばら撒き政策を貫いてきた。それは政策金利を相次いで引き上げても堅調さが続く労働市場の需給であり、経済成長の源泉だった。今回の判決は結果的にここに楔を打ち込んだことになる。バイデン大統領は「代替策を検討する」と強調するが、それには時間がかかる。そのうえ代替策そのものが再び最高裁で否決される可能性もある。今回の判決は米国の歪な現状を抉り出した。ひとつは最高裁の保守化だ。これは同時に人種差別の新たな側面を抉り出した。もう一つは米国経済の隠された“弱さ”だ。来年には大統領選挙がある。米国民の反応が興味深い。