6月27日、北アフリカ系の17歳の少年が警察官によって射殺された事件をきっかけに、フランス全土でこれに抗議するデモが広がった。一時は暴動に発展した抗議デモも、今週半ばぐらいから徐々に沈静化してきたようだ。フランスで起こった暴動は何が原因なのか、ずっと気になっていた。富裕層と貧困層、社会を二分するある種階級社会ともいうべきフランスは、移民を中心とする貧困層に不満が鬱積しやすい構造になっている。そんな中で突発したのが移民系少年の射殺という痛ましい事件だ。検問中の警察官が、停止命令を無視した少年を拳銃で射殺した。日本ではあり得ない事件だ。この時の映像がSNSで公開され、あっという間に怒りの輪が全国に広がった。警察側の勝手な言い分も火に油を注いだ。暴徒の背後にあるのは貧困層の「不満」だ。個人的には現代の世相を「三不の時代」と名付けている。フランスで起こった暴動はその一つである「不穏な時代」の象徴のような気がする。

「三不の時代」とは国民の間に鬱積している「不安」が「不満」に格上げされ、「不穏」な空気が漂い始めている時代だ。フランスは不安を通り越して不満が日常化しているのだろう。少年の射殺を契機に不満が一気に暴動へと広がった。ネットを検索していたら2005年10月にも似たような事件が起こっていたとあった。北アフリカ出身の3人の若者が警察に追われて逃走、逃げ込んだ変電所で感電し、死傷者が出た事件だ。当時内務大臣だったサルコジ氏(後に大統領)がこの事件に関連して「ゼロトレランス(不寛容政策)で対応する」と発言、これに反発した若者たちが抗議デモ繰り返し、フランス全土でデモが暴徒化した。背後に横たわっている格差を無視して当事者に厳罰を科すという対応が、若者を不穏なデモに駆り立てた。フランスの現大統領であるマクロン氏は超名門の国立行政学院出身。この大学は成績が良ければ誰でも入れるわけではない。

厳しい試験をパスするために莫大な教育費をかけた受験勉強が必要になる。必然的に受験生は富裕層に限られる。就職にも格差がつきまとう。名門大学を卒業しないと、いいところには入れないのだ。目に見えないある種の階級制度に覆われた社会。最近の日本もそうなりつつあるようだが、富裕層と貧困層の間に厳然とした溝が横たわっている。そんな中で名門校出身者が過半をしめる政府は少し前、年金の支給年齢を繰り下げようとして強烈な反対デモに遭っている。これも一種のゼロトレランス政策だろう。貧困層だけではない。不安を通り越した不満を大多数の国民が感じ始めている。年金に限らず社会保障制度の改革が必要なのはフランスだけではない。日本も米国やEUも、先進国が直面する大きな課題だ。貧困層だけではない。不満な感情はあらゆる国にも広がっている。どの国の政府も、国民が暴徒化する「不穏な時代」に直面しているのだ。