米商務省は18日、6月の小売売上高(季節調整済み)を発表した。前月比0.2%の増加だ。市場予想(0.5%増)は下回ったものの、インフレ鈍化傾向を先取りして消費者の購買力は徐々に回復しているようだ。円安で食料や日用品が急騰している日本の消費者からみれば、羨ましい限りだ。どうして米国の消費者はこんなに元気なのか?想像するに米国の消費者も物価高に直面している状況は日本と同じだ。いや日本より物価の上昇率ははるかに高い。日本と違うのは物価に比例して所得が伸びていることだ。日本も今年の春闘で3.7%前後の賃上げが実現した。所得も米国並みに伸びている。それでも米国に比べると財布の紐は硬い。この違いはなんだろう。要するに日本は一時的に賃金が上がったに過ぎない。これに対して米国は物価に連動する形で恒常的に賃金が上昇している。日本の消費者には依然として低賃金の“ツケ”が残っている。

品目別の売上をみると自動車が前月比0.3%増(以下同じ)。前月の1.5%増加に比べ減少しているものの、プラス圏にとどまっている。衣料品は0.6%、オンライン小売は1.9%、家具は1.4%、家電・電化製品は1.1%、それぞれ増加した。一方で減少しているのは建設資材・園芸用品1.2%減。スポーツ用品や楽器などを含む趣味用品も減少。生鮮食品のほか、百貨店の売上高も減少した。FRBによる相次ぐ政策金利の引き上げで住宅ローンが上昇し、住宅関連の需要はずっと低迷を続けてきた。それがインフレのピークアウト感とともに復活しはじめている。6月の建設資材が小幅な減少にとどまったことは、住宅需要の復活を先取りしているのかもしれない。個人消費のウエイトはGDPの7割程度を占めている。個人消費が復活するとすれば、米国経済の先行きは想像以上に強いのかもしれない。

日本はどうか。日銀の植田総裁はきのう、インドで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議終了後、記者団の質問に答え次のように語った。「持続的・安定的な2%のインフレ達成というところにまだ距離がある、との認識がまだまだある」(ロイター)。「まだ」という言葉を繰り返しているところに、目標達成は遠い先の出来事といったニュアンスが感じられる。さらに「その認識のもとでは、金融仲介機能や市場機能に配慮しつつ、イールドカーブ・コントロール(YCC)のもとで、粘り強く、金融緩和を続けていく」と説明する。総裁の発言からは国民の消費行動に関する認識をうかがい知ることはできない。2%の物価目標のなかで消費はどうのように位置づけられているのだろうか。そういえば黒田総裁がはじめた異次の金融緩和政策の中で、「消費」に関するはっきりした説明はなかった気がする。