米連邦準備理事会は26日公開市場委員会(FOMC)を開き、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.25%ポイント引き上げ、5.25─5.50%とした。6月会合ではいったん利上げを停止しており、2会合ぶりの政策金利の引き上げ。パウエル議長は会合後の記者会見で次回会合(9月)での利上げについて、「データで裏付けられれば9月の政策決定会合で利上げを行う可能性は確かにある」と述べ、さらなる利上げの可能性を示唆した。ただロイターによるとFRBが再び利上げを行うかどうかどうかについて同議長は、「(データ次第)多くのフォワードガイダンスを提供したい環境ではない」とも述べた。この発言を見る限り同議長は従来のビンビンのタカ派姿勢をいくぶん緩めており、市場には政策金利のピークアウト感と同時に先行きに対する安心感が広がた。

こうした中でロイターは25日、次のコラムを配信した。タイトルは「米FRB、『無原罪のディスインフレ』という悩ましい問題」とある。これだけでは何のことかさっぱりわからない。簡単に要約するとFRBによる矢継ぎ早の利上げで米景気が後退し、失業率は跳ね上がると懸念されていたが、このシナリオは起こらなかった。政策金利を急激に引き上げれば景気は後退する。これが従来の金融理論の伝統的な考え方。それが起こらなかったのはなぜか?というのが悩ましい問題である。これは米国だけではなく世界中の金融学者、エコノミストに共通する課題だろう。コラムの筆者は米景気が堅調な理由として2つ挙げる。①金融政策が実はまだ十分に引き締まっていない②家計と企業のバランスシートが良好であること。コロナ禍に伴い、トランプ前政権とバイデン現政権が巨額の財政刺激策を実施したことに起因する、という指摘だ。個人的には②に一票。

ロイターは「景気が強ければ通常は物価に上昇圧力がかかるものだが、インフレ率は昨年6月の9.1%をピークに徐々に下がり、現在はFRBの物価目標2%まであと1%ポイントのところに来た」と指摘する。「この奇妙な組み合わせの説明」にエコノミストや学者が「苦慮している」というのだ。ここにも2つの仮説が存在するようだ。1つはコロナで経済構造が変質し、インフレは自然に収まったとする説。2つ目は金利上昇と失業率の関係が断絶されたというもの。コラムの筆者は聖母マリアの「無原罪懐胎」に引っ掛けて「無原罪のディスインフレ』と呼んでいる。金融論として何が正しいのかよくわからない。ただ個人的な実感としては「何かが急激に変わっている」気がする。植田日銀総裁は非伝統的金融政策の正当性を相変わらず強調している。だが、それすらも「すでに古いのではないか」、そんな気がするのだ。