「ひょっとしたら勝つかもしれない」、そのくらいの期待感はあった。だがここまで完璧に勝つと誰が予想しただろうか。これだからサッカー観戦はやめられない。もちろん数多くの凡戦を見せられることもある。それでもこういう試合も見ることがサッカー観戦の醍醐味だ。FIFAランキングは日本が11位、スペインが6位だ。ランキング通りに勝負が決まるわけではないが、それでもこれは強さの証だ。これまでの対戦成績も日本の0勝3敗1分け。スペインの方が圧倒的に力は上だ。とはいえ、予選で日本はザンビアに5対0、コスタリカに2対0で勝っている。チームの意気は上がっている。もちろんスペインも両チームに5対0、3対0で勝っている。でも、スペインは勝って当たりえ、日本はこの2勝でかつてないほどチームの雰囲気が良くなっている。W杯予選の男子の再現はあるか、期待感が膨らんでいた。

結果は周知の通りだ。日本が4対0で勝ち、予選C組を1位で通過した。勝因は何か、敵将・ビルダ監督の日本評が参考になる。試合の前日監督は以下のように語っている。「(日本は)完全なチームで、選手にも多様性がある。フィールドに出た時に何をすべきかわかっている。非常にインテリジェンスの高いチーム」。このことばにすべてが凝縮されているような気がする。まずはデータ。中日スポーツによると、支配率「65%-23%」、シュート数「10本-8本」、パス成功数「842本-174本」などデータをみるかぎりスペインが圧倒している。ボール支配率がこの試合の推移をはっきりと示している。日本が防戦一方の試合と言ってもいいくらいだ。同紙はこの試合に関するSNS上の声を拾っている。「この試合のスタッツはクレージーだ」「なんて試合だ」「日本は危険なチームだ」「日本が米国の対抗馬になる。どこも止められない」など、驚嘆のコメントで溢れたと伝えている。

ここに日本の勝因があると言っていいのではないか。パスサッカーのスペイン、個人技は確かに優れていた。だが攻められても、攻められても「脅威」は感じなかった。解説者によると日本は「ボールを持たれているとは考えていない。ボールを持たせてやっていると考えている」と言っていた。敵将はこの余裕に日本選手の「多様性」や「インテリジェンス」を感じていたのではないか。主将の熊谷は試合後スペイン対策が奏功したことを振り返り、「ちょっと驚きました」と表現している。ボールを持たせてやる作戦が見事にハマったのだ。守備陣が守りを固め、ちょっとした隙をついてロングパススを繰り出す。中盤から前線へ、今度は流れるようなスピードと正確なパスワークでゴールに迫る。それが悉くシュートに結びついた。こんな完璧な試合は2度と見られないかもしれない。本当に胸のすくような勝ち方だった。