米商務省が15日発表した7月の小売売上高(季節調整済み)は、前月比0.7%増加した。予想の0.4%を上回った。政策金利の高止まりに伴って米国の景気後退懸念が強まっているが、それを吹き飛ばす消費の健在ぶりを改めて浮き彫りにした。普通ならこれで株価が急騰するところだが、NYダウは予想に反して急落した。予想を上回る米小売売上高を受け、金利がより長期にわたり高水準で推移するとの懸念が強まったためだ。好材料が市場にとって悪材料になる典型的なケースだ。矢継ぎ早に実施された政策金利の引き上げにもかかわらず、労働市場は一向に衰えをみせない。こうなると金利の上昇懸念が一段と強まる。これは好循環なのか悪循環なのか、マーケット関係者やエコノミストの大半が頭を悩ませている。

一方、ウクライナ戦争で劣勢が伝えられるロシア。中央銀行はきのう政策金利を3.5%引き上げて12%にした。0.25%刻みで引き上げる米国と違っていきなり3.5%も引き上げるロシア。これも独裁政権の為せる技か。ナビウリナ中銀総裁は昨年2月のウクライナ侵攻以降、巧みな金融操作でロシア経済を安定させてきた。プーチンをはじめ右派の強硬派もその手腕を評価していた。にもかかわらずここにきて急激な政策変更を余儀なくされた。その最も大きな要因はルーブル安だ。ルーブル安にともなってインフレが急騰、1ドル=100ルーブル台に急落した。こうした事態を受けてプーチンの経済顧問であるマクシム・オレシキン氏が「大統領府は強いルーブルを望む」(ロイター)と表明、暗にナビウリナ総裁を批判した。おそらくプーチンの指示だろう。中銀は臨時会合を開いて大幅な金利の引き上げを決めた。

米国は強いドルと強い消費が経済の先行きを危うくしている。これに対してロシアは弱い通貨と独裁者の意向に中央銀行が寄り添っている。どちらが正しいか、そんなことを考えても意味がない。米国経済は伝統的な手法ではコントロールできくなくなっているのだ。これに対してロシアでは相も変わらず独裁的手法がまかり通っている。ルーブル安の本質は資源国家ロシアの弱体化だろう。これにたいして米国経済ならびにドルの強さは、消費者の購買力が強くなっていることが本質的な要因だ。消費が強いから労働市場はいつまで経っても緩まない。市場経済にとってはある意味で理想的な状況だが、インフレも連動して衰えない。それでもバイデン政権は、財政を犠牲にして消費者をより強くしようとしている。米ロとも軍事大国だが、経済の運営手法は時代遅れで古いのかもしれない。