岸田首相はきのう、官邸でこれから取りまとめる経済対策の柱や、いわゆる「年収の壁」対策など当面の課題について記者団に説明した。各メディアが一斉に報道している。とはいえ、これは正式な記者会見ではなさそうだ。これから取りまとめる経済対策の柱や、いわゆる「年収の壁」の当面の解決策について方針を説明したということのようだ。産経新聞(Web版)は「岸田文雄首相が25日、物価高対策など経済対策の『柱立て』を表明したことで、今後は10月中の全体像取りまとめに向けた議論とともに、首相が早期の衆院解散・総選挙に踏み切るかも焦点となる」と書いている。読売新聞(Web版)は「岸田首相は25日、10月中の策定を目指す経済対策の骨子を発表した」とだけ書く。産経新聞の写真のキャプションは「経済対策の柱などについて記者団の取材に応じる岸田文雄首相」となっている。記者会見という表現はどこにもない。

どうして記者会見ではないのか。おそらく中身が正式に決まっていないからだろう。その一方で「年収の壁」対策についてはやけに詳しい。岸田総理は「支援強化パッケージを週内に決め、来月から実施する」(産経Web版)と表明している。要するに国民受けしそうな項目はドンドンぶち上げ、経済対策は項目だけを列挙してお茶を濁す。これも総理が得意とする一種の人気取り発言だろう。産経新聞(Web版)にもどろう。「10月をめどに経済対策を取りまとめる。その後速やかに(令和5年度)補正予算案の編成に入る」。首相は25日、経済対策の裏付けとなる補正予算案の国会提出の時期に関する記者団の質問に対し、提出時期への言及を避けた。これは何を意味するのか。支持率低迷で苦しむ首相にとって経済対策は「選挙での格好のアピール材料になりうる」(産経Web版)。ここまでくれば首相の腹は明らかだ。大盤振る舞いの経済対策を取りまとめ、臨時国会冒頭で衆議院を解散する。そんな秘めた思惑を記者は感じ取っているのだろう。

経済対策が曖昧な一方で、「年収の壁」対策はやけに詳しい。「手当の創設や賃上げで労働者の収入を増加させる取り組みを行った事業主に、従業員1人当たり最大50万円を支給する助成金制度を創設する」と言及した。壁を突破して扶養手当や年金掛金負担が発生する従業員に手当や賃上げで補う企業に、一人当たり50万円を支給するという。一見良さげに見える。だがこの措置は2年間の暫定対策だ。どうして暫定なのか?2025年には5年ごとに実施される年金制度の見直しが行われる。ここで抜本的な改革を行うという腹なのだろう。だが従来の抜本改革は国民のための改革というよりは、大幅な赤字を抱える財政の再建に資する改革という狙いが強かった。抜本改革が国民のための改革になる可能性は、はっきり言って絶望的に低い。岸田総理の主導する「年収の壁」改革、裏に“良からぬ意図”が隠されている気がする。

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