岸田総理は26日、「年収の壁」対策として10月から手当や賃上げを実施する企業に一人当たり年間50万円を支給すると表明した。突然の発表だ。どういう経緯でこういう対策が決まったのか、主要メディアはまったく報道しない。支持率が低迷する中で解散に打って出ようとしている総理の、人気挽回策だろうと個人的には愚考している。これで専業主婦や学生のアルバイト時間が長くなり、手取りが増えならそれ自体は結構なことだと思う。しかし、なんでこんな面倒くさいことをするの。「年収の壁」をたとえば200万円に引き上げれいいのではないか。ということで、知っているようで知らない収入と税金・社会保障負担の関係をちょっと調べてみた。まずは「年収の壁」。具体的にはどんな壁があるのか?

例によってググってみた。伊予銀行のWebサイトが引っかかった。まずは壁の種類。年収の壁とは、「世帯主の扶養範囲内で働く場合の年収基準です。主婦・主夫がパートやアルバイトの短時間労働を行う際、年収の壁を超えると手取り収入が減ってしまいます」。これがいわゆる年収の壁と呼ばれるものだ。収入が壁を超えると税金や年金や健康保険、雇用保険の費用負担が発生する。壁は一つではない。いくつもある。まずは「100万円の壁」。これを超えると住民税が発生する。次が「103万円の壁」、住民税に加えて所得税が発生する。世帯主の配偶者控除も減額される。その次が「106万円の壁」。住民税、所得税に加えて一定の条件を満たすと社会保険料の支払い義務が発生する。月額12,500円。収入に比べてこの負担額は高いか低いか?「もっと働きたい」専業主婦の悩みのタネだ。

これを超えると「130万円の壁」が待ち構える。税金はもちろん社会保険への加入も必要になる。かてて加えて世帯主の扶養家族からも除外される。要するに配偶者控除(満額で38万円)の適用除外になるというわけだ。仮に年間131万円をアルバイトで稼ぐ主婦がいたとする。この主婦ならびに家庭は次年度から大幅な減収になるだろう。日本はいま、いたるところで人手不足だ。にもかかわらずこの制度は、能力があり労働力として価値が高い専業主婦の働く意欲を阻害する。壁を取り除けば世帯の収入が増え、市場経済にとって最も重要な需要が喚起される。為政者が決断するだけで日本経済の再生が確実に保証される。だが現実は、壁を残したまま別途従業員一人当たり50万円支給するという弥縫策だ。屋上屋を重ねる愚策。短期間に抜本的な改革を実現できない政治家、官僚、学識経験者などなど。日本の為政者は日本社会を蝕む“ガン”だ。